オホーツクのガラ権ホテルは意外に立派

「会員制ホテル今昔物語」は、35年に渡ってリゾート会員権についてウォッチされているzukisansuさんによる連載です。日本で独自の発展を遂げたリゾート会員権、すなわち「ガラ権」の歴史をたどることで、日本的文化とは何か、日本人とは何かを、過去に学び未来を見通す―そんな奥行きのある連載として、僕から特別にお願いし、zukisansuさんにしか語れないこのテーマでご執筆いただく運びとなりました。どうぞご期待ください。(企画・制作:resortboy)

2024年も2月に入り、今日は節分、明日は立春、そして恒例の札幌雪まつりもはじまります。我が家はコンビニの洗脳を受け、「恵方巻」なる日本の伝統ではない不思議な新慣習に染まっておりますが、今年の恵方は「東北東」だそうです。これは東京から見れば、遠く北海道方面となりますので、今回から2カ月くらい、この恵方の地を回ってみたいと思います。

北海道のリゾート開発は、他の地域とまったくスケール感が異なります。バブル期に始まる大型リゾートホテルは、必ずと言ってよいほどゴルフ場やスキー場(両方も多数)を併設し、隣接した総合リゾートの宿泊施設となるスタイルです。

こうした北海道における「ガラ権錬金術」は、バブルリゾートの建設資金に使われ、その後の大型倒産事案としていくつものニュースを産みました。本連載の北海道編は、どこにどんな「ガラ権」リゾートホテルがあったのかを思い出し、筆者がここ5年以内に改めて訪ねたものを、現状報告にスポットを当てて書いていきたいと思います。

今日はその第一弾ですが、読者の皆さまは「日本最北のガラ権ホテル」はどこかご存知でしょうか。難しい質問ですので答えを先に書きますと、道東の最北、北見・網走エリアに残る豪華リゾート「端野メビウスリゾート」であり、現在の名前は「ノーザンアークリゾート 1」であります。

このリゾートは、知床の玄関口、女満別空港 2 からほど近い北見市にあります。1985年に開港した女満別空港の後を追うように、1987年に実際に開発が始まっています。「端野(たんの)」というのは当時の町名で、今は北見市の一部となっています 3

バブル総合リゾートである端野メビウスリゾートは、1989年開業の「端野メビウススキー場」、1991年開業の「グランクリュゴルフクラブ」及び「ホテルメビウス」から成り立ちます。このホテルメビウスが「ガラ権最北端」のホテルです。

筆者は、このガラ権が募集時から妙に気になっていました。それは正直なところ、バブルとはいえさすがにオホーツクでリゾート会員権は難しいだろうと思ったからですが、やはりあまりに遠く、行って見る機会がないまま、2008年に民事再生に至りました。

再生スポンサーは韓国企業 4 であり、事業継承後、リゾート全体の名称を「ノーザンアーク」と変えたので、ますますどこにあるのかわからなくなりましたが、設立からはるかに時が過ぎた2020年8月、ようやく現地訪問ができました。

リゾート全体としては稼働していたものの、立派なホテルメビウスは休業したままで(おそらくコロナ以後は頻繁に休業)、ゴルフ場とスキー場のみが動いていました。

北見市内は北海道の果ての都市ですが、商業や大学の町として活気があります 5 。優良ビジネスホテルも進出し 6、泊まる所に困ることはありません。ホテルメビウスは北見市中心からさほど離れてはいませんが、滞在にはよいけれども、ビジネスホテルと比較すると観光や出張には使い勝手が悪そうで、稼働率が上がらなさそうでした。

開発当初は町を挙げた誘致であったと思いますが、正直なところ、低山であまり広くないゲレンデ 7 とプレー期間が限られるゴルフ場 8 では、この最果てのリゾートに復活の時が来るのかはわかりません。前途多難ですが、2023~24年シーズンは、ゴルフ場、スキー場ともにオープンしています。立派なホテルですので、再開を期待したいところです。

この総合リゾート開発を率いたのは、バブル期に東京の土地取引で稼いだ「中央エンタープライズ」系列の「グラウンズ」であり、いずれも社長は当時不動産業で鳴らした勝田栄緒という方でした。端野メビウスリゾートの開発から現在に至る経緯については、「椿ゴルフ」さんがグランクリュゴルフクラブについての記録を残してくださっており 9、ホテルメビウスも含めた当時の事情を伺い知ることができます。

ホテルメビウスは60室と特に大きくはありませんが、実際に訪問してみると、レストラン(450席)、ゴルフクラブハウス、スキーセンタ-、温浴施設などの付帯施設がそろっているため、かなり大規模な建物に見えました。

また冒頭に、「筆者が妙に気になっていた」と書きましたが、このホテルの建物デザインが今もって秀逸であったことがその理由です。ホテル自体は営業していませんが、リゾート施設は稼働してきたため、廃墟感はまったくなく、パッと見て利用したいと思えるホテルです。

さすがバブル期に造られたホテルは、今なお価値がありますね。北の果ての極寒の気候の厳しいエリアで、もう30年以上、美を守っているのでした。

女満別空港のある、今は「大空町」となっているエリアは、ビジュアル的な村おこし 10 でひまわり栽培に力を入れていて、訪れた際は見ごろでもあり、ひまわり畑には多数の人が来ていました。

また、北海道で一番大きな湖であるサロマ湖畔にあった「サロマ湖東急リゾート」は、現在も北海道の最高級温泉旅館ホテルグループ「鶴雅」に引き継がれ繁盛していましたし 11、観光名所「網走」も歴史を感じる良い街です 12

ガラ権最北の「ホテルメビウス」に興味を持たれたマニアの皆さまは、ここの見聞ついでに、サロマ湖やひまわり畑展望と網走観光をなさってはいかがでしょうか。順番が逆ですかね?

文・撮影:zukisansu、企画・考証・制作:resortboy。バックナンバーはこちら

2 comments

  1. メビウスリゾート(現ノーザンアークリゾート)が、2024年3月末で全体が営業終了となることが報道されています。

    北見・ノーザンアークリゾート 3月末で営業終了 コロナ禍で事業不振:北海道新聞デジタル

    本連載はいろいろな偶然が積み重なって実現していますが、このように「今のうちに書かないとすべてが忘れ去られてしまう」という、歴史の境目に私たちは生きている、ということが一番大きいですかね。

    こんなに立派に研究しているのはここだけなので、ぜひ出版にこぎつけたいですね。

  2. resortboyさん、追加情報ありがとうございます。
    書いたタイミングとぴったり重なり、非常に驚いています。
    地元の方々が、もっとショックのようですが(同新聞の追加記事)。
    https://www.hokkaido-np.co.jp/article/973953/

    今の時代は、少子高齢化・人口減と下り坂になっているためか?
    気候の厳しいエリアが急激に消滅に向かう反面、都会の中心部については高層ビルが
    林立するというような極端な偏りが目立ちます。

    スキーリゾートにおいても同様で、北海道でも札幌以西・南は元気です。
    何事においても、極端な偏りが起こるのが日本人的であり、ガラ権探訪を通じて、
    こういった日本文化にも踏み込めればと思っています
    (力不足なので、思っているだけです、爆)。

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