巨大ガラ権の神隠し。天孫降臨の地に廃墟

「会員制ホテル今昔物語」は、35年に渡ってリゾート会員権についてウォッチされているzukisansuさんによる連載です。日本で独自の発展を遂げたリゾート会員権、すなわち「ガラ権」の歴史をたどることで、日本的文化とは何か、日本人とは何かを、過去に学び未来を見通す―そんな奥行きのある連載として、僕から特別にお願いし、zukisansuさんにしか語れないこのテーマでご執筆いただく運びとなりました。どうぞご期待ください。(企画・制作:resortboy)

南九州の最高レベルの景勝地にして天孫降臨伝承地、霧島錦江湾国立公園エリアを巡るガラ権見て歩きの第2回です。霧島神宮のお膝元である霧島神宮温泉郷の頂きにある霧島ロイヤルホテルに続き、同じ温泉郷のもっと神宮に近い場所に、南九州最大の「ガラ権遺跡」があります。

今回ご紹介するガラ権遺跡、すなわち現況=廃墟は、「ロマネスクリゾート霧島」というホテルです。

霧島エリアに来て霧島神宮に参拝しないということはないと思います。霧島神宮にホントに近く、あまりに近いので、こんな場所にこんな巨大な廃墟があり、さらにそれがガラ権ホテルであったなんて、実際に訪れると、わかっていても驚きます。

Googleマップやその他の観光案内写真などでもこの遺跡は存在が確認できますが、やや低い場所に建っているのと、木々に隠れていて実際に訪れると正確な場所が分かりにくいです。

ガラ権界の伊能忠敬はゆく

このガラ権遺跡は霧島神宮下の小集落の外れにあるのですが、巨大な建物でありながら、誰もがその入口を見失うことでしょう。まさに「神隠し」にあった廃墟、というわけで、それゆえなのか、廃墟化後の撤去に関する問題は聞いていません。

霧島神宮前を通る国道223号線は、かなりの交通量のある幹線道路です。この道路沿いに、冒頭の写真に示す、トンネルのようなホテルエントランスへの導入路がありました。

現在は柵があって車は入れないのと、そもそもトンネル自体が通過できない状態です。かつて営業していた時は、このトンネルをくぐり、ロマンの世界に入っていけたのでしょう。そのようなエントランスの造りになっています。

メイン入口からは入れないことを確認した筆者は、地図を参考に側道に下り、ホテル敷地へと向かいます。このアクセスは困難なものでしたが、ガラ権界の伊能忠敬は諦めずにたどり着くことができました。

そこには、空を真上に見上げるほどの、巨大な半円型の建物がありました。

敷地内は高い柵で囲われており、中には入れませんが、まるですぐにでも使えそうな、白亜のホテルです。

遅れてきた豪華リゾマン

この神隠しガラ権施設、実に数奇な運命をたどってきました。その会員権の内容や施設について、本連載で書き残しておきたいと思います。

ロマネスクリゾート霧島は、九州の福岡(博多)の「丸美」という不動産会社の発売したガラ権施設でした。このリゾート会員権はこの他に2つ、熊本と大分に施設があり(今後掲載予定)、3施設から成る「ロマネスクリゾートクラブ」会員権のフラッグシップ施設でした。

もともとこのロマネスクリゾート霧島は、少し変わったリゾートマンションでした。開発したのは「すまい」という名前の会社で、九州各地に「ロマネスク」ブランドで多数のマンションを分譲していた会社でした。本施設はそのリゾート版でしたが、1998年に倒産してしまいます 1

当初の完成は1993年6月で 2、まさに90年バブルの絶好調期に計画・建設されたリゾマンでした。14階建て、253戸という巨大なリゾマンで、廃墟となった今も、豪華建物であったことが一目でわかります。

また、奇遇にも本リゾマンは、北海道一番の「エイペックス洞爺」を建築した東洋建設がまったく同じ時期に作ったものでありました 3。そして同じように、計画も販売もバブル崩壊後ですでに遅し。ロマネスクリゾート霧島は半分も売れなかったそうです。

売れ残りのリゾマンがガラ権化

売れ残った半分は、すまい社の倒産により処分されることになり、購入したのが丸美でした。

同社は、マンションは賃貸住宅の管理会社で、管理していたマンションは400棟以上、20,000戸に達していたという、当時九州では有数の管理会社でした。そして丸美は、この未分譲部分をガラ権にすることを思いつきます。

倒産したすまい社は、自社物件のマンション管理子会社を持っていましたが、争奪戦の末、丸美が引継ぎます 1。こうしてロマネスクリゾート霧島は、約半数の持ち分ながらも丸美が自由に運営できる物件となりました。

丸美は当初、約10室をVIPルームにリフォームし、まず共有制(小口分譲型)のリゾート会員権を売り出します 4

リゾマンとガラ権の関係では、東急ハーヴェストクラブが先例としてありましたが、丸美が東急を真似たと言うこともなさそうです。おそらくは、リフォームして小口分譲ガラ権にすれば売れるだろうと、自然に考え出されたものではなかったでしょうか。

会員権を重ね売り

ユニークというかおかしいのはその後です。

当初、そのマンションの約半数を、持ち分割合や仕組みは雑多ながら、約600口に小口で分譲販売し、共有リゾマンとでも言うべき、共有制ガラ権となりました 5。そこまではいいのですが、丸美はそれに加えて、本リゾマンに対して預託金制のガラ権を開発・販売開始してしまいます。

これは稼働率の向上を考えたのかもしれませんが、例えて言いますと、共有制会員権として販売したエクシブに対して、さらに同じ施設を対象に別の預託金制会員権を設定した、ということですから、これは前代未聞であります。

しかも、その後付けの会員権がありえない設定でした。宿泊権利として考えれば、共有制の会員が強いのは当然です。ですから、後から始めた預託金制の会員権は、利用クーポンを発行して、予約できずに使い残したクーポンは買い取りするという、金融商品まがいのものであったのです。

リゾートをまったく使わなくても年利5%の金融商品のようなものとも言え、販売方法のたくみさもあって、これがけっこう売れてしまうのです。

管理組合をターゲットに

その販売方法についてです。九州での賃貸住宅管理において大手であった丸美は、この預託金制会員権の営業を、自らが管理するマンションの管理組合向けに特化して展開します 6。これは丸美にとって非常に手軽である一方、売られる方は自らのマンションの管理会社ということで信用も十分。

飛ぶように売れた会員権は、1口200万に対し、宿泊クーポンが20万(すべて買い取ると10万)という還元は高率で、1年後からはいつでも1口あたり190万の預託金を払戻す、という条件でした。

九州の人たちにとって最高の観光地である霧島エリアにそびえるロマンのホテル。そして熊本や阿蘇に近い菊南の温泉、大分の奥座敷・湯布院にも施設があると来たら、一気に多数のマンション管理組合が飛びついたのも無理はありません。2006年に3施設で本格始動後、ガラ権事業での収入は70億円を超えていた模様です 6

あっという間に倒産

手堅い仕事である住宅管理大手だった丸美は、ガラ権錬金浪漫にすっかり浸かってしまい、先が何も見えなくなったのでしょう。ホテル利用クーポンとはいえ、契約金の10%を毎年還元するのです。70億なら7億円はすべて3施設のホテルで利用され、ホテル運営におけるキャッシュフローはゼロです。

すぐに経営は迷走し、預託金返還騒ぎも起き、あっけなく2008年には倒産となりました 7。計画倒産だったとの噂もありますが、その後の裁判では、わずかに約1.5億円弱の部分においてのみ、「明らかに返還出来ないことを知りながら会員権を売った部分」として詐欺の判決が下りています。しかし大半は「だますつもりはなかった」として、不問となっているようです 8

倒産後に丸美が刑事事件としてマスコミに取り上げられたのは、大阪府中央区にあった「丸美堺筋本町ビル」に関する社債を募集した際、その社債発行元となる会社が存在していなかったとして有価証券偽造で刑事摘発されたものでした 9。ガラ権詐欺はその付け足し的な存在であり、会員権詐欺は立件が難しいことを今に伝えています。

すでに起きた未来

この丸美のガラ権の顛末は、本連載でも付け足しであり、今回の主テーマは「素晴らしい廃墟」についてです。話を建築物に戻します。

この素晴らしい施設には、いくつかの法人が再生を試みた形跡があります。日経では韓国企業がリゾート事業を引き継ぐと報道がありました 10。また、鹿児島県の医療法人「山由会」が約70%の本マンションの債権を取得したようですが、資金難で2014年に倒産しています 11

2018年には福岡市のマリア・ホームという会社が再生に名乗りをあげていますが、何かが前進したことはなさそうです 12

こうして、2008年8月、丸美の倒産と同時に閉業したロマネスクリゾート霧島は、ホテルとして稼働できないまま、15年以上の時を刻みました。

共有制のガラ権だったものは、権利関係が分散し複雑すぎるため、再生はおろか壊すのも困難です。しかし、建物が完全に使用不可能と当局が判断するまでは、当たり前ですが、共有持分に応じて固定資産税などの租税公課が賦課されます。そして完全に使用不可能と判定された時には、安全のために取り壊し命令が出ることも予想されます。

この共有制リゾート会員権の会員であった区分所有権を取得した人々は、今のところ、この廃墟のリゾマンから永久に解放されることはなさそうです。検索すると売り物件もありました。「ワケあり物件18万。約53平米、持分7分の1、税8,300円/年」。買う人がいるはずもありません。

これが共有制の持つ脅威であり、すでに起きた未来であります。

霧島に起きた錬金浪漫の果ては、天孫降臨の神々の下、まるで教訓を人間界に見せしめるために、林の中にたたずみ続けているかのようでした。


  1. 丸美 瓦解の必然(3) 金丸オーナーには絶大な運があったのに(上):|NetIB-NEWS|ネットアイビーニュース ↩︎ ↩︎

  2. 完成時にはすでにバブルが崩壊していたため、「持ち分オーナー方式」と称するガラ権的な販売が行われた。
    鹿児島・霧島町にリゾートマンション、すまい、7月末開設。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎

  3. 建築工事実績 | 建築工事 | 東洋建設株式会社 ↩︎

  4. 不動産の丸美、リゾート事業参入。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎

  5. 旧すまい分譲の「持ち分オーナー方式」がどのように丸美に引き継がれたかは、今となっては不明である。 ↩︎

  6. 丸美 瓦解の必然(6)一般人を巻き込んで(前):|NetIB-NEWS|ネットアイビーニュース ↩︎ ↩︎

  7. 丸美が民事再生法を申請/九州で今年最大の負債 | 全国ニュース | 四国新聞社 ↩︎

  8. 丸美、破綻4カ月前に新会員権 詐欺事件 - 日本経済新聞
    「丸美」元会長ら追送検 1億4000万円詐欺容疑 - 日本経済新聞
    丸美元会長に懲役6年 詐欺などで福岡地裁判決 - 日本経済新聞
    丸美、金丸元会長に懲役6年の実刑~関係者「軽すぎる」:|NetIB-NEWS|ネットアイビーニュース ↩︎

  9. 丸美の架空社債事件、元会長ら起訴 福岡地検 - 日本経済新聞 ↩︎

  10. 丸美ホテル事業、韓国企業が支援。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎

  11. これからどうするんだろう~ロマネスクリゾート霧島 | 福岡県民新聞社 ↩︎

  12. マリアホーム株式会社 | マリアホーム株式会社は、ロマネスクリゾート霧島再生事業の会社です。 ↩︎

文・撮影:zukisansu、企画・制作:resortboy。バックナンバーはこちら

1 comment

  1. zukisansuさん、今回は渾身のガラ権「廃墟」レポートですね。よくもまあこれだけ詳しくお調べになったものだ~、と感心しながら最後まで興味深く読みました。resortboyさんのAI利用による上空からのホテル全景写真も秀逸です。お二人ともご苦労様でした。

    リゾートの夢を求めて山の中に理想郷を造り、そこに夢追い人達が集まる。大金をはたいて…。しばらくはその夢は続きますが、時代の変化は速く、すぐにその夢は覚めます。夢の続きを引き受けてくれる人がいなければその巨大施設は廃墟になり、今や誰も訪れることのない遺跡になっている。いやはやリゾート開発とは難しいものですね。

    この記事で私も思い出しました。かってのガラ権が廃墟になった現場を探検しに行ったのです。それが長野県佐久市にある「蓼科仙境都市」です。確かresortboyさんのブログにちょっと紹介記事があり、では、“幻の仙境都市”に行ってみよう!となった訳です。2012年10月のことです。zukisansuさんに似て私もモノ好きですね。

    ちょっと怖かったです。1人(ドライブ)旅でした。深い山の中の林道を車で突き進んだ訳ですが、山道は狭くガードレールはありません。谷に落ちたら絶対に死にます。そんな中、誰もいない廃墟になった「蓼科仙境都市」に着きました。ホテルの中まで突入して写真を撮ってきました。その時のレポートがフォートラベルにあります。モノ好きな人はご覧ください。

    ◎秋のホテルアンビエント蓼科①(コテージ滞在:大河原峠・蓼科仙境都市編)
    https://4travel.jp/travelogue/10719963

    参考:廃墟検索地図「蓼科仙境都市」
    https://haikyo.info/s/16484.html

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

😂 😍 🤣 😊 🙏 💕 😭 😘 👍 😅 👏 😁 🔥 💔 💖 😢 🤔 😆 🙄 💪 😉 👌 😔 😎 😇 🎉 😱 🌸 😋 💯 🙈 😒 🤭 👊 😊