箱根の盟主の名門クラブ、切り離されてゼロ円に

「会員制ホテル今昔物語」は、35年に渡ってリゾート会員権についてウォッチされているzukisansuさんによる連載です。日本で独自の発展を遂げたリゾート会員権、すなわち「ガラ権」の歴史をたどることで、日本的文化とは何か、日本人とは何かを、過去に学び未来を見通す―そんな奥行きのある連載として、僕から特別にお願いし、zukisansuさんにしか語れないこのテーマでご執筆いただく運びとなりました。どうぞご期待ください。(企画・制作:resortboy)

これまで、関東エリアから離れた地域に所在するガラ権施設を見てきた本連載は、これからいよいよ、関東・関西・中部の都市近郊部のリゾート地を取り上げていきます。併せて、まだ訪れていないローカル地とを行ったり来たりする形で、連載は進行します。今回からは関東の最大ガラ権集積エリア、箱根をテーマに、4回シリーズでお届けします。

浦島太郎

そう思ったのは、連載で直近に取り上げたのは鳥羽エリアでの体験からです。鳥羽で取り上げる中心的話題となるはずだった藤田観光(フジタ)の「ウィスタリアンクラブ鳥羽」に達した際、筆者は「浦島太郎」であることに気づいたのです。

鳥羽から撤退した藤田観光のガラ権はどうなったか

記事で書いたように、鳥羽はすでにフジタが撤退した後でした。これはいかんとフジタの本拠地、箱根を訪れれば、連載とは別にFANBOX特番でレポートした「紀州鉄道 箱根強羅ホテル」が、以前と全く違った姿に変貌していました。

またそこでは、一見好調そうに見える東急不動産のリゾート販売手法が、過去と大きく異なるものに変貌していました。既に従来型のガラ権ビジネスは終えんし、別のステージに進んでいることも確認されました。

そこで、日本を代表するガラ権銀座、箱根の今について、予定を前倒しして取り上げることとしたのです。

フジタの本拠地

箱根エリアと言うと、小田原から箱根湯本を経由して箱根の山を登るとき、最初に出会う巨大ガラ権が宮ノ下の「エクシブ箱根離宮」です。そしてそれから先、曲がりくねった坂道の途中で、最後は箱根強羅に至るまでのほぼ全体を占めるのが、藤田観光の各種ホテル、温浴施設(ユネッサン)、戸建て別荘、無数のリゾマン、そして2カ所の「ウィスタリアンライフクラブ」施設となるのです。

ここで、ガラ権の歴史ではありませんが、フジタの沿革を復習します。

1869年設立の藤田組を前身とする藤田財閥は、1945年の第二次世界大戦終戦後すぐ、1948年に箱根小涌園を開業し 1、翌49年に温泉第一号を掘りあてます。また東京に置いては52年に「椿山荘」2、大阪においては59年に「太閤園」3 を開業しますが、それらと並行して54年に伊東小涌園を開業し 4、55年に本家から観光事業を分離して「藤田観光」を作っています。藤田財閥としてのレクリエーション事業を通じた社会貢献がモットーであったようです。

鳥羽でフジタを語った時、鳥羽小涌園開業が1965年と知りましたが、今回取り上げる箱根小涌園エリアの開発は、それより15年以上も早く、フジタとしても最古のものとなっています。リゾート施設としての本拠地と言って良く、知名度も抜群です。

またフジタは、こうして築いたホテルチェーンを割引料金で利用できる「フジタ・グリーン・メンバーズ(FGM)」を1965年に開始。筆者はこれをガラ権とは言えないと考えていますが、会員制リゾートクラブの元祖であるという見方があり、同社の足跡からして歴史上の意義は大きく、無視することはできません 5

ユネッサンの思い出

さて、読者の皆さまも、フジタの箱根の施設のどれかは利用されたことがあるのではないでしょうか。筆者の思い出は、子供たちと行った「ユネッサン」6 であり、一日中遊んで最後に温泉に入り、くたくたになって遅くに宿に向かう、といった思い出は数え切れません。

そんな時、素泊まりで受け入れてくれるガラ権施設は重宝でした。筆者は箱根に施設があるガラ権を沢山集めており、選択に困るほどでしたが、使い勝手の良さから東急ハーヴェストクラブ(箱根明神平や箱根甲子園)をよく利用していました。ただ、遊び疲れた家族とともに車移動で宿に向かうのは、なかなかに面倒なものでした。

そんな中、いつもうらやましく思っていたのが、ユネッサンと同一の経営であった「ウィスタリアンライフクラブ」の3施設でありました。3施設とは、「箱根」「ヴェルデの森・西館」「ヴェルデの森・東館」です。

筆者がこれらを買わなかった理由は、会員権を集めすぎて利用が飽和状態だった(苦笑)のと、施設がリゾマン的でホテルとして目立たなかったこと、そしてフジタの信用からガラ権価格が高かったことなどでした。

ウィスタリアンライフクラブ箱根

思い出話はこれまでにして、ウィスタリアンライフクラブの箱根の3施設のスペックと、クラブの現状、フジタの箱根小涌園エリアの開発の今という、本題に入ります。

まず施設紹介です。第1号となる「箱根 7」は、宮ノ下から登って来る途中にあるリゾートマンションで、ユネッサンから見れば坂の下、手前にあるコンビニの、さらに下に位置します。部屋数は18室、31平米が基本ですが、倍の62平米が5室あります。

鳥羽もそうでしたが、部屋はキチンとメンテされているものの、館内にレストランも大浴場もない(ただし、全室のユニットバスは小涌谷温泉)ことがデメリットです。

ヴェルデの森

「ヴェルデの森・西館」は39平米以上の50室、並び立つ「ヴェルデの森・東館」は同じく39平米以上の49室で、全室ユニットバスには二ノ平温泉が引かれています。

ヴェルデの森 8 のロケーションは最高で、ユネッサンの隣で遊歩道で結ばれています。東館には温泉大浴場があり、西館には「リバティ 9」と名付けられたプールやジム、スパなどのある健康増進施設があり、ここだけでユネッサンも必要ないとも言える充実さです。

このヴェルデの森はクラブのフラッグシップとなっていて、立派なレストランも併設していて、かつては椿山荘から来た料理人が腕を振るっていました。

もちろん施設からの眺望も最高で、箱根外輪山を一望。大文字焼きも見えると言うフジタ渾身の作品にして、建物の上品さや佇まいも含めて考えて、箱根エリアガラ権グランプリ上位入賞施設です。クラブ内でのパーソンチャージもこの施設だけやや高めに設定されていたり(リバティの利用料がプラスされている)、会員権の値段が突出していたのもうなずけます。

人気ガラ権

藤田観光は、このガラ権が売れたからと言って急激な展開はせず、地味であった記憶があります。64室で1980年に野尻湖 10 から始まる施設展開は、1986年に東館、87年に西館の開業で終結(それまででわずか6施設)に近づき(その後は、宇佐美Ⅱとかなり遅れてプロミネント車山高原)、一室10口の分割であったため、会員数は全部で3,000口程度であった模様です。

それにしては、ヴェルデの森の販売価格は一口600万(不動産部分価格が9割近い良心的価格)で、藤田観光の信用もあり、すぐに完売。中古価格は当初募集価格を上回っていた人気ガラ権でした。

加えて、フジタ・グリーン・メンバーズの血を引いて、本ガラ権会員にはフジタの経営していたワシントンホテルの半額利用券も付いていた、価値あるものでした。

切り離され、ゼロ円

クラブの現状ですが、鳥羽で書いた通りです。ホテル・旅館・温浴レジャー経営としての箱根からフジタは撤退しておらず、「箱根ホテル小涌園」「箱根小涌園 天悠」などを完全に建て直し、坂の手前のユネッサンと合わせて盛況です。

残念ながら、ガラ権と別荘管理は、すでに「藤田グリーンサービス」から、フジタの名前が外れた「グリーンサービス」に資本・運営移動が済んでおり、ガラ権は問題なく運営されていると思えるものの、野尻湖は閉館が決まり、また建物共有制であったこともあり、今や中古市場で全ての施設が「ゼロ円」化しています。

経年劣化はあるにしても、ヴェルデの森のような立派な施設の会員権に値段が付かないと言うのも不思議な気もしますが、市場の評価は受け入れざるを得ません。

ウィスタリアンライフクラブは、藤田観光という大手企業が、共有制リゾート会員権というマーケットに目をつけて、「頭で考えて」作った組織であり、大企業のビジネスであったために日本リゾートクラブ協会に加盟することはなかったと言うのも、ガラ権史の一側面として知っておくべき事実です。

1970年代前半、カネも時間もない不動産屋などが、自然発生的に全国各地でリゾート会員権を刷って暮らしはじめました。筆者はこれを「ガラ権縄文人」と命名しています。そしてその一群が集合し、協会を作って連絡を取りあって活動していましたが、フジタにその必要はなかったのです11

小涌園の再開発

最後に、現在の藤田観光による箱根の近況です。

同社は、「緑の村」別荘地(元は藤田グリーンサービスが管理)やウィスタリアンワイフクラブ(同)を切り離して身軽になると同時に、2010年代後半から次々と、箱根小涌園エリアにおける旅館・ホテル施設群を全面リニューアル(建て替え)に注力しています。

2017年に箱根小涌園 天悠 12、2020年に箱根小涌園 三河屋旅館 13、2023年に箱根ホテル小涌園 14 と次々に開業し、コロナ後の旅行需要やインバウンドで、株価は回復。V字回復どころか、20年来の高値を記録しています。

フジタ本家的には、大阪の太閤園を売却せざるを得なかったり 15、東京の椿山荘の見直しも必要など 16、課題解決は途上かもしれませんが、設立当初の志の高い魂を受け継ぐものとしての 17、箱根での活躍を祈っています。

ウィスタリアンライフクラブについては、別経営となったのは承知の上で、今後の連載で、プロミネント車山高原 18 などの特色ある施設について触れていきたいと思っています。


  1. 箱根ホテル小涌園の開業まで(1)|箱根ホテル小涌園【公式】|藤田観光リゾート ↩︎

  2. ホテル椿山荘東京の歴史 | 東京のホテルならホテル椿山荘東京。【公式サイト】 ↩︎

  3. 太閤園 - Wikipedia ↩︎

  4. 現在も健在。
    リフレッシュオープンのためのメンテナンス。改装の一部をお伝えします! | 伊東小涌園【公式】 ↩︎

  5. ウィスタリアンライフクラブ鳥羽 | 鳥羽から撤退した藤田観光のガラ権はどうなったか | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎

  6. 【公式】箱根温泉・箱根旅行なら箱根小涌園ユネッサン ↩︎

  7. 箱根l【公式】ウィスタリアンライフクラブ | ウィスタリアンライフクラブ ↩︎

  8. ヴェルデの森l【公式】ウィスタリアンライフクラブ | ウィスタリアンライフクラブ ↩︎

  9. ウィスタリアンライフクラブ ヴェルデの森の設備・サービス情報 -宿泊予約なら 【Yahoo!トラベル】 ↩︎

  10. 2024年12月22日に営業終了となる。
    野尻湖l【公式】ウィスタリアンライフクラブ | ウィスタリアンライフクラブ ↩︎

  11. ところが現在のグリーンサービスが運営する新ウィスタリアンライフクラブは、大手を離れたため、元祖ガラ権メーカーの一つ「紀州鉄道」と提携施設契約を結んでいる。
    提携施設(紀州鉄道宿泊施設)のご案内 | ウィスタリアンライフクラブ ↩︎

  12. 箱根小涌園 天悠【公式】|全客室露天風呂付き 箱根の温泉宿 ↩︎

  13. 箱根小涌園 三河屋旅館【公式】 ↩︎

  14. 箱根ホテル小涌園【公式】 ↩︎

  15. 「椿山荘も売却の選択肢だった」 太閤園手放す藤田観光社長の苦衷:日経ビジネス電子版 ↩︎

  16. 老舗の結婚式場 相次ぎリニューアル 背景は?|テレ東BIZ(テレビ東京ビジネスオンデマンド) ↩︎

  17. 企業理念 | 会社情報 | 藤田観光株式会社 ↩︎

  18. 蓼科の会員制ホテルめぐり – 1 「プロミネント車山高原」- 前編 | ウィスタリアンライフクラブ – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究
    蓼科の会員制ホテルめぐり – 2 「プロミネント車山高原」- 後編 | ウィスタリアンライフクラブ – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎

文・撮影:zukisansu、企画・考証・制作:resortboy。バックナンバーはこちら

1 comment

  1. ウィスタリアンライフクラブは熱海の物件も部屋温泉が魅力的ですね。
    ユニットバスをちょっと伊豆石に変えてみたりしたら気分が出て人気も出そうです。
    ヴェルデの森は、周りの別荘(フジタマンション)にも温泉引けますし(こちらはホントに浴槽を石に変えてしまった物件が売りに出てます。同じこと考える人がいるもんだ)。

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