蓼科の会員制ホテルめぐり – 2 「プロミネント車山高原」- 後編

9月はエクシブ値上げの話題で持ち切りで、少し間が空いてしまいましたが、エクシブ以外の会員制リゾートホテルについてご紹介する記事を、再び書いていきたいと思います。今回は中途半端になってしまった藤田観光の「プロミネント車山高原」についての後編です。

このホテルの魅力などについては前回の記事で書いたので、今回は、いったいこのホテルはどのように生まれて、今はどうなっているのかという、リゾート会員権史的な視点で見ていきたいと思います。

(前回の記事から読む)蓼科の会員制ホテルめぐり – 1 「プロミネント車山高原」- 前編|ウィスタリアンライフクラブ – resortboy’s blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究

このホテルは開発当初より、「スカイパークホテル」という一般ホテルと、「プロミネント車山高原」という会員制ホテルのハイブリッド営業スタイルで開業した、極めて珍しいホテルです。客室数はスカイパークホテルが69室(スタンダードツイン:64室/デラックスツイン:4室/スイート:1室)、プロミネント車山が90室(分譲室数)です。

他にも、東急ハーヴェストクラブの中に「ホテルハーヴェスト」が併設されているようなケースはありますが、一般ホテルと会員制ホテルが対等に近いような規模で、レストランやプールなどを共用しているという例は、このプロミネント車山高原以外には、横浜ベイコート倶楽部+カハラ横浜(ザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜)くらいなのではないでしょうか。

こちらが館内にあるホテルの見取り図です。レストランやプールがある真ん中のセンターハウスを挟んで、左が一般ホテルのスカイパークホテル、右が会員制のプロミネント車山です。

このホテルの会員権がどのように販売されたのかを振り返ります。ホテルが完成したのは1994年(平成6年)10月ですから、バブル最末期に企画されたホテルということになります。当時はスキーブーム最高潮の時代で、車山は首都圏からもアクセスしやすいスキー場として今では考えられないほどに人気がありました。

その時期に一般ホテルとのハイブリッドで計画された事情はさらなる取材を行わないとわかりませんが、今振り返って言えることは、1)会員制一本でホテルが建つほどのリゾートバブルは終わっていた、2)ハイブリッド経営だったからこそ、今もホテル運営が継続できている、という2点ではないでしょうか。

実際、会員権の販売は苦戦していたようです。以下は2002年の藤田観光ホームページからの引用ですが、開業後8年を経過してもまだ新規販売は継続されていました。

1室を10人で共有するという設定で、当時の販売価格は650万円ほど。現在の売れ筋リゾート会員権の価格からは半分程度の水準ですが、当時のエクシブスタンダード26泊タイプと同程度ですから(2004年開業のエクシブ浜名湖で640万円)、当時としては一般的な価格であったと思われます。

この会員権の現在の流通価格は、10万円程度、もしくは値があってないようなものではないかと思います。藤田観光はこの会員権に限ってなぜか名義変更料を40万円+税と高額に設定したため、会員権の資産性はその分押し下げられることとなりました。

それに前回の記事で紹介しましたが、プロミネント車山の会員権を持っていなくても、もっと低額な費用で会員になれる「クラブフジタ」でもそれほど高くない料金で利用できますから、積極的にプロミネント車山の会員になるメリットは限定的ではないかと思います。そして、もっと普通に、スカイパークホテルを一般ホテルとして利用してもよいのですから。

(公式)CLUB FUJITA|藤田観光の会員制リゾート施設のご案内
(公式)【公式】車山高原スカイパークホテル

次に、こうした珍しい開発形体のホテルが、現在どのように「ハイブリッド」で経営されているのか、その実態について見てみます。

フロント等があるセンター棟は会員にも持ち分のある共有施設のようですが、一般ホテル部分との持ち分関係などの詳細は未取材です。プールはきちんと営業が維持されていました。

フロント左手のスカイパークホテルは「信州綜合開発観光株式会社」が運営するホテルですが、この会社は藤田観光との資本関係はないまったくの別会社です。スカイパークホテルのホームページには会社情報が一切記載されておらず、不自然な状況にあります。ビジネスホテル「スマイルホテル」を運営するホスピタリティオペレーションズが2018年に同社を取得しましたが、すぐに手放しています。

現地取材をしてわかったのは、スカイパークホテルは以下の「富士山リゾートホテル」と同じグループが現在は運営しており、その実質的な親会社は「医療法人社団神州」であり、さらにその医療法人の理事長は長野県で専門学校の代表者を務めるなど、多角的な経営を行っている人物であるということくらいです。

(参考)グループ施設 | 富士山リゾートホテル

藤田観光はフロント右手のプロミネント車山高原の「共有者代表」という立場で、同ホテルを区分所有するオーナーの共有者代表として子会社の「藤田グリーン・サービス株式会社」にホテルの管理を委託をしています。そしてその藤田グリーン・サービスが信州綜合開発観光にプロミネント車山高原の運営について業務委託するという、多重的な構造になっています。

こちらは現地で撮影してきた写真ですが、これら2つのホテルは現実的には区別なく運営されているようでした。

スカイパークホテルのホームページを見ても、プロミネント車山の客室が普通に掲載されていて「和洋室/84室」が「プロミネント車山高原会員様の客室をご利用いただけます」として紹介されています。会員制として分譲され、管理費や租税公課の負担もある客室が一般ホテルとして利用されているという現実がここにはありました。

藤田観光は堂々たる東証プライム上場企業であり、おかしなことにはなっていないと信じたいものですが、スカイパークホテルの経営に対してどれほどのコントロールが効いているのか、外部から見る限り、不安があるような印象を持ちました。

最後に、利用者としての立場で雑感を述べて終わりにします。

このホテルは、日本の山岳リゾートの中でも最も恵まれた自然環境に位置する稀有なホテルです。しかも、ホテルの半分以上を会員制として分譲して開発されたため、全体としてみれば極めて珍しい「和洋室比率の多いリゾートホテル」となっています。

バブルの名残を感じさせる威風堂々たるムードは(僕にとっては)魅力的ですし、また、経営状況に疑問符が着くものの藤田観光のブランドを冠するホテルでもあり、その「ねじれっぷり」は他に類を見ないユニークなものです。そしてそれは、(そこそこ)高品質なホテルを(かなり)低価格に利用できるチャンスを提供してくれているとも言えるでしょう。

というわけで、研究家の立場からは極めて興味深いホテルなので、今後も見守っていきたいと思います。最後はこのホテルの散策路からの絶景です。

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