がん未検査8年目の異常と再検査の日々 – 3

「がん患者よ、旅に出よう!」は、トラベルライターの舟橋栄二さんによる連載です。早期退職でリゾートライフを満喫する日々の裏には、2度の手術を含めた「がん」との闘いがありました。「旅は生きる喜び。その喜びをがんに奪われたくない」
本連載は「旅を通して転移がんを克服した全記録」です。(編集担当:resortboy)

3度目の通院が恐怖でした。首の超音波(エコー)検査です。超音波を首の表面に当てて臓器から返ってくる音波の変化を画像にする検査です。甲状腺の内部にあるしこりの性質やリンパ節への転移の有無などを調べます。

さらに、がんの可能性がある場合には「穿刺(せんし)吸引細胞診」をします。これは、甲状腺腫瘍や首のリンパ節転移をエコーで位置を確認しながら、細い注射針を刺して直接細胞を吸い出し、顕微鏡で観察するというものです。

この細胞診でがんの確定診断ができます。私は以前、超音波と細胞診で首のリンパ節転移が発見されました。だから、怖いのです。

まな板の鯉

かつての私は、リンパ節へのがん転移の数が非常に多かったのです。2回目の手術をしてはや8年、そのがんが左の甲状腺やリンパ節、さらに肺にまで転移していても不思議ではありません。この検査で、私のがん細胞がどこまで転移しているのか、真実が明らかになります。

私はあきらめの心境で、がんは転移しているだろうなと「まな板の鯉」の状態で診察台の上に横たわりました。

検査の先生はモニターを見ながら慎重に私の首周りにエコーをあてていきます。所々、止まったり、行ったり来たりしながら無言で検査が進んでいきます。何とも長い時間です。

ひと通り検査が終わった段階で、先生が言いました。

「特に異常はありませんね」

うそ~、本当? 私は先生の言葉が信じられませんでした。左の甲状腺や首のリンパ節への転移はありませんでした。

そして運命の日、CT検査の結果を聞きに行く日がやってきました。

造影剤入りCTで首から下半身まで撮影しているので、甲状腺がんだけではなく、他のがんも出てくる可能性があります。私にとっては見たくない現実、知らぬままにしておいた方がいい真実が、白日の下にさらされます。

緊張の一瞬です。

がんは消えていた

私は泌尿器科の先生の前に座り、全身の神経を集中して説明を聞きました。先生は検査結果を見て、あっさり言いました。

「腎臓・膀胱・前立腺等の下腹部に異常はないですね。その他の臓器も問題なさそうです」

驚きの結果でした。何と私のがんは消えていました。この時は本当に嬉しかった。「やった~!」です。

でも不思議です。尿、血液、超音波、CT等の検査で何も問題がなければ、あの鮮やかな血尿は一体何だったのか?

そのことを先生に尋ねると、先生は私に血尿の前後で変わったことはないかと聞いてきました。

そこで、色々思い出して気が付いたことが1つだけありました。それは、血尿の前に少し便秘になり、かなりふんばって便を出したことです。そのことを先生に伝えると、「腹圧で前立腺の毛細血管が切れた可能性がありますね」とコメントが返ってきました。

なるほど、納得です。最初の血尿は大量でしたが、時間を追うごとに少なくなり、最後に、血の小さな塊や赤い糸くずみたいなものが混じっていました。恐らく切れた毛細血管が修復され血が止まったのでしょう。以来、一度も血尿はありません。

何だ、そんなことだったのかと、全く拍子抜けです。「真実」は分かってみると大したことないものですね。

私は血尿の原因と結果がすっと理解でき、晴れ晴れした気分で病院を後にしました。

がんセンターからの帰路、車から眺めた空は青く輝いていました。何もかも新鮮で、何もかも明るく、未来が開かれていく感じでした。

ちょっと脱線しますが…

私の妻は精神的に自立していて、私が2度もがんになってもそれほど落ち込まなかったようです。彼女いわく、「私が落ち込んでも家庭が暗くなるだけでしょう。いつも通り、普通に生活するわよ」と。

そして、何ごともなかったように明るく振る舞っていました。この妻の変わらぬ姿に救われた気がします。「がん転移なし」の報告も、真っ先に妻に知らせました。恐らく、私のいない所で、妻は涙を流して喜んでくれた?

その真偽はともかく、今回の原稿を書きながら妻に尋ねました。

「今まで長い間、私のがん闘病に付き合ってくれた妻に、ひと言、感謝の言葉を日記に書いた方がいいかな?」

妻の返事は…

「ひと言ではダメで、10個は書いてよ」でした。

(続く)

【次回】第40回・旅と健康―私のがんはなぜ消えた? – 1

【前回】第38回・がん未検査8年目の異常と再検査の日々 – 2

本連載が単行本(紙の書籍)として刊行されました

本連載は、本サイトに掲載した舟橋栄二さんの記事から、がん闘病に関する回を再配信したものです。時期に関する記載は2022年現在のものです。

(本連載記事一覧)がん患者よ、旅に出よう!
(スペシャル対談)私のリゾートライフの全体マップ
(筆者ホームページ)舟橋栄二「第二の人生を豊かに」

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