
「新たな健診基準」を知っていますか? – 1
本連載は「旅を通して転移がんを克服した全記録」です。(編集担当:resortboy)
コレステロール治療の真実を追求していく中で、利権構造でがっちり固められた日本医師会・日本医学会・日本動脈硬化学会の姿が鮮明に見えてきました。私たちは、病気と治療についてしっかり学習し、賢い患者にならないと、まともに生きていけない時代にいるのかもしれません。
驚きの「新たな健診の基準範囲」
2013年に出されたコレステロール治療についてのアメリカ発の新ガイドラインは、日本の医学界に激震を与えました(第2-47回・コレステロールと黒船 – 4)。日本動脈硬化学会はそれを全否定したのですが、翌年、日本国内でも大きな動きがありました。
2014年4月、従来のコレステロール基準に一石を投ずる報告書が、健診の当事者(日本人間ドック学会・健康保険組合連合会)から出ました。それが「新たな健診の基本検査の基準範囲」の報告書(以下参照)です。
新たな健診の基本検査の基準範囲を発表|プレスリリース|けんぽれん[健康保険組合連合会]
(報告書PDF)新たな健診の基本検査の基準範囲 日本人間ドック学会と健保連による 150 万人のメガスタディー(公益社団法人 日本医師会Webサイトによる)
以下は上記報告書の冒頭に掲載されている「要旨」からの抜粋です(太線筆者)。
日本人間ドック学会(以下本学会)と健康保険組合連合会(以下健保連)では共同研究事業を立ち上げ、約150万人に及ぶ人間ドック健診受診者の健診データについて肥満度、血圧、脂質、血糖等の検査値を受診者個々に蓄積し、メガスタディーによる新たな検査値の基準範囲を作成した。(略)
最終的に選び出された超健康人(スーパーノーマルの人)約1万~1万5千人の個々の検査値から基準範囲を求めた。なお男女差および年齢差については統計学的に明らかなものを、その差が存在するとした。
何しろ、日々、健診を行っている日本人間ドック学会と健康保険組合連合会が、自らの健診データを駆使して、検査基準の真実に迫ろうとした非常に意欲的な研究でした。
研究目的も「人間ドック健診の有用性をより明確にし、多くの加入者の生活の質の向上と医療費適正化に資することを目的に調査研究を実施する事」と書かれています。極めてまっとうで志(こころざし)が高いです。
私はこの報告書は、現代日本において最も確かなエビデンスのある、「健康な日本人」の基準だと思います。人間ドック健診の受診者は普通に健康な生活を送っている人たちなので、まさに予防医学的な観点から生活習慣病予防の貴重なデータを提供するものと思います。
コレステロールの新たな基準範囲
この報告書には次の2つの大きな特徴があります。
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コレステロール等を含め多くの検査結果で男女差・年齢差を認める基準範囲が設定された。
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LDL-コレステロール関連の検査(以下参照)では、従来の人間ドック学会基準値を大幅に超える基準範囲が設定された。
ここに記されているLDL-コレステロールの新たな基準範囲は、以下のようになっています。
男性:年齢差なし:72~178
女性:30~44歳:61~152
45~64歳:73~183
65~80歳:84~190
上記のデータから、女性は閉経によってLDL-Cが急激に増加することが、「超健康人」のエビデンスからも裏付けられました。何しろこの研究対象は、約150万人に及ぶ人間ドック健診受診者から選ばれた1%にも満たない1万~1.5万人の超健康人たちです。閉経後にLDL-Cが増えても、健康に過ごせることが示されています。
新基準が正常範囲として適用されたら?
この新たな健診の基準範囲は上記の報告書に示されていますが、多数のデータがあり判読しにくいので、私はコレステロール関連だけを取り出し、さらに、女性についてはシニア世代(65~80歳)のみを記載して、以下のような表を作ってみました。
表の右端にある「学会基準値*」は、従来の人間ドック学会の正常範囲(A判定)のもので、日本動脈硬化学会の基準と同じです。
この「新たな基準」は、従来の学会基準を大幅に緩和するものでした。特に著しいのがLDLで、男性の上限が178、女性の上限が190になっています。一方で、学会基準は一律119なので極端に差があります。
また、中性脂肪(TG:トリグリセライド)の男女差を見て私は驚きました。男性の上限が198に対して、女性の上限は134と低いです。男女ともに年齢差はありません。女性は中性脂肪を皮下脂肪として蓄えるので血液中のTGは少ないのでしょう。一方で、学会基準では男女一律に149です。
もし、この「新たな健診の基準範囲」が「正常範囲」として適用されれば、コレステロールや中性脂肪による患者数が激減します。
実は血圧の基準範囲も大幅に変わっており、従来の人間ドック学会の正常範囲(A判定)の上限が、次のように緩和されました。
収縮期血圧:130mmHg未満→下限88、上限147mmHg
拡張期血圧:85 mmHg未満→下限51、上限94mmHg
この血圧の新基準も、正常範囲として一般に認知されたら高血圧症の患者は激減します。
私自身、もし新基準に従えば30年以上に及ぶ高LDL-Cの数値はすべて基準範囲に入り、血圧もぎりぎりセーフになります。
ワオ~、Great! この新基準によって従来の脂質異常症と高血圧症の患者は激減し多くの日本人は幸せになります。よかった、よかった。
しかし、現実はそんなに甘くはありませんでした。
(続く)
【次回】第2-55回・「新たな健診基準」を知っていますか? – 2
【前回】第2-53回・コレステロール治療は闇だらけ – 3
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