ハイメディック大阪(photo by resortboy)

メディカル会員権とはどんなものか

今日はリゾートトラストがリゾート会員権と並行して進めている別の会員権ビジネスについて話題にしてみましょう。同社はかなり古くから(1994年~)、がんの早期発見を主な目的とする検診に宿泊サービスを組み合わせた、いわゆる「メディカル会員権」(商品名は「ハイメディック」)を販売しています。

放射線規制から生まれた「山中湖方式」

リゾートトラストのメディカル会員権は、エクシブ山中湖(1993年開業)の地下2階に、1994年に「山中湖クリニック」が開業したことにはじまります。メディカル会員権第1弾の「ハイメディック山中湖倶楽部」です。

リゾート会員権をメイン事業とする当時のリゾートトラストがどのような経緯でメディカル事業に進出したのかは定かではありませんが、確かなことは、当時はまだがんの早期発見につながるPET検診は一般的ではなく、また現在とは違う規制があったことです。

PET検診を世界ではじめて本格導入したのがこの山中湖クリニックだと言われています。放射線に対する当時の規制のため、クリニックは都市部での事業開始を見送らざるを得ず、結果としてエクシブ山中湖の地下で開業することとなりました。

同クリニックでの世界に先駆けての検診事例の蓄積は、2000ゼロ年代以降に急速に普及することになるPET検診へのガイドライン作成にも大きく貢献します。同クリニックでの検診ノウハウは、医療の世界で「山中湖方式」と呼ばれるようになったと言います。

規制を理由とした会員制リゾートとPET検診との出会いは、リゾートトラストの現在の経営にも大きな影響をもたらしています。同社の現社長、伏見有貴氏は長く検診事業を手掛けた経歴を持つ人物です。

メディカル会員権とは毎年の健康診断

こうした経緯を経て、リゾートトラストは2004年以降、次々とメディカル会員権を販売していきます。以下に初代山中湖以外の会員権の発売時に出された報道発表資料を掲示します(表記が不統一ですが原典ママです)。

(2004年5月6日)『グランドハイメディック倶楽部』会員権販売開始のお知らせ

(2005年6月20日)『グランドハイメディック倶楽部』ハイメディック・東大病院会員権販売開始のお知らせ

(2013年7月3日)グランドハイメディック倶楽部『ハイメディック・ミッドタウン』会員権販売開始のお知らせ

(2014年9月24日)総合メディカルサポート倶楽部「グランドハイメディック倶楽部」『ハイメディック名古屋』会員権販売開始のお知らせ

(2015年6月12日)「グランドハイメディック倶楽部」の新拠点開設決定『ハイメディック東京ベイコース』会員権販売開始のお知らせ

(2016年1月25日)「グランドハイメディック倶楽部」『ハイメディック京大病院』会員権販売開始のお知らせ

(2019年10月15日)「グランドハイメディック倶楽部」『ハイメディック東京日本橋コース』会員権販売開始のお知らせ

同社の発表によれば、2021年12月末現在のメディカル会員権契約数は25,675人です。

その内容とは現在、どのようなものでしょうか。現在販売中のメディカル会員権の一つで、2020年6月に検診が開始された(ホテルで言えば開業に当たる)「ハイメディック東京日本橋コース」を例に概観します。

この会員権は、リゾートトラスト傘下の「日本橋室町三井タワー ミッドタウンクリニック」が行う検診を年に一度受けられる「受診権」がサービスの中心です。

検診は、がんや脳血管疾患、循環器疾患の早期発見を目的としています。以下の公式ページに検査の流れがありますが、1日目は3時間のPET/CT検査、2日目がその他各種検査と医師との結果面談で約6時間、となっています。

(公式情報)ハイメディック東京日本橋コース | グランドハイメディック倶楽部

健康管理の対価は15年間で1,200万超

この検診のほか、検診半年後の無料フォローアップ検査、予約制の会員外来、疾患発見時の医療機関への紹介、看護師による生活指導や栄養相談、医師による健康相談などが付帯し、継続的な健康管理を行えるのが入会のメリットであるとされています。

ハイメディック東京日本橋コースの入会金は300万円(税別)で、月会費が46,000円です(年会費ではなく月会費です)。検診は通常年1回ですが、特約を結ぶと追加の検診が可能となり、1回の検診追加費用は50万円(税別)であるようです。

(公式情報)グランドハイメディック倶楽部 月会費型会員様用の細則(PDF)

会員資格は15年なので、この会員権の場合は、15年間に渡る年1回の検診及び付帯サービスの対価が1,128万円(税別)ということになります。消費税がずっと10%であったと仮定すると、この間の健康管理の費用は、およそ1,241万円となります。

検診にホテル宿泊が付帯

こうしたメディカル会員権(検診コース)は、全8コースあります。発売順に、ハイメディック山中湖、ハイメディック大阪、ハイメディック・東大病院、ハイメディック・ミッドタウン、ハイメディック東京ベイ、ハイメディック京大病院、ハイメディック名古屋、ハイメディック東京日本橋の計8コースです。

同社のメディカル会員権の特徴は、2日に渡る検診に宿泊サービスを組み合わせていることです。例えば、本記事で主に取り上げているハイメディック東京日本橋コースでは、ホテルトラスティプレミア日本橋浜町またはホテルトラスティ東京ベイサイドに無料(1日分のみ)で宿泊できます(日本橋浜町は3月末で閉館になるので、有明の東京ベイサイドに一本化されるでしょう)。

東京大学医学部附属病院が検診を行うハイメディック・東大病院コースだけは、1日検診(8時間)となっているのでホテル宿泊がありませんが、他はすべて宿泊サービスが付帯しており、対応するホテルは以下の通りです。

メディカル会員権検診時の宿泊先
ハイメディック山中湖エクシブ山中湖(ハイメディック専用ルーム)
ハイメディック大阪ホテルトラスティ心斎橋
ハイメディック・東大病院日帰りで宿泊なし
ハイメディック・ミッドタウンホテルトラスティ東京ベイサイドまたはザ・リッツ・カールトン東京(有料)
ハイメディック東京ベイホテルトラスティ東京ベイサイド
ハイメディック京大病院サンメンバーズ京都嵯峨
ハイメディック名古屋ホテルトラスティ名古屋 白川
ハイメディック東京日本橋ホテルトラスティプレミア日本橋浜町またはホテルトラスティ東京ベイサイド

メディカル会員権はリゾートではなく都市圏での展開がメインなので、宿泊が不要なケースも多いはずですが、この商品のはじまりが「山中湖」にあるため、現在もこの宿泊付帯のフォーマットが継続しているわけです。

リゾート会員権との類似点と相違点

現在販売中のメディカル会員権は、ハイメディック東京日本橋コース、ハイメディック名古屋コース、ハイメディック京大病院コースの3つで、他は完売です。メディカル会員権を購入して入会すると「ホームクリニック」と「占有日期間」が割り当たります。占有日期間中にホームクリニックで優先的に検診を受診できるというシステムの考え方には、エクシブ由来のものが感じられます。

エクシブなどと同様に、他の施設で検診を受ける、いわば相互利用も可能です。このため、各メディカル会員権を総合的に捉える上位概念として、「グランドハイメディック倶楽部」というブランド名が付けられています。

リゾート会員権との類似性という点では、権利が譲渡可能であることがあります。上掲のグランドハイメディック倶楽部の細則を見ると、「受診権」を中心に組み立てられており、譲渡可能性を示す名義変更料の記載もあります。

第三者への名義変更料は変更時の入会金の2割であり、現在は60万円(税別)です。これはエクシブやベイコート倶楽部の名義変更料よりもさらに高額であることから、会員権の資産性についてはほぼない(流通可能性に乏しい)と言って差し支えないと思います。不動産登記や預託金などの資産性の裏付けとなるものも存在しません。

このように、会員権として重要な要素である資産性については疑問符が付きますが、同社はこのビジネスを「会員権」であると定義しています。この部分については議論が分かれるところだろうと思います。同社は単なるホテル宿泊の回数券を「会員権」と称するような「癖」がありますから(「ザ・カハラ・クラブ ハワイ」のことです)、別の言い方があれば当サイトでもそのように改めるべきかもしれません。

ハワイのカハラが一般客として利用できるように、ハイメディック会員権が利用するクリニックを一般利用することも(部屋や付帯サービスが異なるものの)可能ですので、会員権における排他性という点についても議論の余地があるでしょう。僕も一般客として東京ミッドタウンクリニックで人間ドックを受診しています。

最後になりますが、会社側の収益認識はリゾート会員権とタイミングが異なります。リゾート会員権の場合、入会金は契約時に売上計上されますが、メディカル会員権の場合、リゾートトラストは入会金を8年間で償却して売上計上しています(未償却部分は前受金として資産計上)。ちょっと細かい話ですが、当記事は研究目的であるので付記しておきました。

次回は、こうしたメディカル会員権との関係も併せて、リゾートトラストのトラスティ撤退について改めて検討してみます。

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