会員制リゾートが世界一を目指したあの頃(拾遺編)

「会員制ホテル今昔物語」は、35年に渡ってリゾート会員権についてウォッチされているzukisansuさんによる連載です。日本で独自の発展を遂げたリゾート会員権、すなわち「ガラ権」の歴史をたどることで、日本的文化とは何か、日本人とは何かを、過去に学び未来を見通す―そんな奥行きのある連載として、僕から特別にお願いし、zukisansuさんにしか語れないこのテーマでご執筆いただく運びとなりました。どうぞご期待ください。(企画・制作:resortboy)

考証担当による補足

番組の途中ですが、企画・制作担当のresortboyです。著者のzukisansuさんは黄昏のなかトマムを出て、新千歳空港に向かってしまいました。僕は考証担当としてトマムに残り、もう少しだけ、20年程度昔の話をさせていただきます。後半はクルマで移動中のzukisansuさんにバトンタッチします。

と言いますのも、旧アルファリゾート・トマムは現在、星野リゾートとクラブメッドという2大ブランドを掲げる現役バリバリのリゾート地です。その開発のほぼすべては、日本が豊かだった頃のリゾート会員権(ガラ権)によるものであり、そこに今は多くのインバウンド客が訪れ、逆に日本人には縁遠くなるような部分もある、というのは、これは我々にとって「既に起きた未来」であるからです。

以下では、2つの話をします。1つは星野リゾートに引き継がれる前の貴重な写真を使って、現存施設との比較を試みます。もう1つは、なぜ星野リゾートとクラブメッドの2枚看板となっているのかという経緯についてです。現役リゾートであるトマムの現在(Now)と過去(and Then)をつなぐことで、よりリゾート会員権というものの本質に触れられるといいなと思います。

2001年のトマム

まずは、考証担当が入手したこちらの写真をご覧ください。

これは2001年12月22日、13時43分に、ザ タワー32階から撮影されたアルファリゾート・トマムです。撮影は当時のホームページ(ブログ)担当の方です。

この頃、加森観光の子会社「リゾートマネジメント」がトマム全体の運営を手掛けていました。関兵精麦が倒産する前ですので、星野リゾートはまだ関わっていません。

写真は当時のリゾートマネジメント管理のサーバーのアーカイブで発見したものです。今となっては許可の取りようもなく、クレジットを明記した上で、僕が再現像して掲載させていただくこととしました。

手前に大きく映っているのがホテルアルファ トマムです。そしてその奥には現在クラブメッドとなっているホテル群が見えます。一見して「今と同じじゃん!」と驚かされます。

奥に4つホテルが見えるのがわかるでしょうか? このうち3つはクラブメッドになりましたが、一番左に見えている「オスカー・スイートホテル」は今も営業していません。それらの手前に見える「VIZスパハウス」(現ミナミナビーチ)の大きさが際立ち、スケールの壮大さがよくわかります。

さらに左の奥にはトマム駅も見えます。

これは22年以上前、2001年の写真です。まるで今日撮ったようではありませんか。ここに見える景色で現在までに追加されたのは、冒頭の写真のクラブメッドのセンター部分、KITAMI棟くらいです。

星野とクラブメッド、分割体制の理由

加森時代のマップも入手できたので、以下に掲載します。これは2002年制作のマップですが、これもまた、まるで昨日みたいな仕上がりです。

さて、考証担当が語るもう1つは、なぜ星野リゾートとクラブメッドの2枚看板になっているのか、という点です。これは歴史的経緯に由来します。

詳しくはWikipediaにまとまっているのでご覧いただきたいのですが、破綻前のアルファリゾート・トマムは、関兵精麦とアルファ・コーポレーションの2社に開発主体が分かれていました。そのため、ガレリア・タワースイートホテル2棟、ヴィラ・マルシェ・ホテル・アビチ、ヴィラ・スポルト2棟、オスカー・スイートホテルは関兵精麦ではなく、アルファ・コーポレーションが開発・分譲したものでした。

関兵精麦よりもアルファ・コーポレーションの方が先に破綻したため、アルファ社分は占冠村が買い取り、加森観光に無償貸与することになりました。遅れて関兵精麦が破綻した際、同社は施設を星野リゾートへ売却します。こうして2社運営体制となりますが、ほどなく占冠村が委託先を星野リゾートに変更したため、2005年から星野一社運営となります。

その際に現クラブメッド部分、つまり現在リゾナーレになっているガレリア以外の占冠村所有のホテルは運営されることなく、遊休資産となります。それが2017年にクラブメッドとなるわけです。

星野リゾートと占冠村は、2008年に旧アルファ社分施設の買取について合意していましたが、調停の末、星野側がそれを履行したのはつい最近のことです。以下がその調停結果です。価格をご覧ください。これもまた、ガラ権の夢の後、であります。

あまりに価格が低くて驚くと思います。「おれの家よりも安い!」みたいな。星野リゾートは保有に伴う固定資産税負担を嫌って、買い取りを長期間渋ってきたのです。共有制の会員制リゾートホテルって、けっこうずるい仕組みだって、このことからもわかるでしょう。

では、マイクを夕張に向かう車内のzukisansuさんにお返しします。

当時の会員権とは

以上、2回に渡って掲載した、世界一を目指したガラ権、アルファリゾート・トマム。仙台の大物武将一族のお家騒動から、アルファ星の爆発 1 、武将一族の滅亡から、占冠村(行政側)の対応と星野と加森になった経緯 2。そして加森すら退散。星野も中国資本に資産を売却し、占冠村も手を引く 3

これらの話は寂しすぎるので、ご興味のある方はWikipediaを参考にご検索され、これら一連の事情をお読みになってください。さまざまなものがネット上だけでも散見されるはずです。

これまで書きましたように、アルファリゾート・トマムは、大元となる最古のオークラ系ホテル、ホテルアルファ トマムを除き、宿泊施設は全てガラ権施設でした。この連載をお読みの読者の方は、その会員権の内容についてご興味があることと思います。

筆者の手元にある1990年発行の「リゾートクラブガイド'91」(綜合ユニコム)に、トマムの会員権として「バカンザ」という名称でデータが載っていましたので引用します。タワーやスポルトに関しては、1室10口にてガラ権化していた様子です。

上記資料には預託金制とありますが、区分所有権に基づく共有制の会員権もあったため、運営元の破綻でその権利は消えなかったようです。再生屋である星野リゾートが今も「ザ・タワー 4」と「ザ・ヴィレッジアルファ 5」を用いて会員権事業を続けているという珍しいケースとなっています。

マウントレースイ

クルマはトマムを出て、新千歳空港に向かいます。途中で寄り道をしまして、大型スキーリゾートの破綻案件を紹介します。

炭鉱の町・夕張が総力を挙げて開発した、スキーリゾート&ホテルである「マウントレースイ 6」です。これはガラ権ではありませんが、占冠村同様に、自治体を挙げての取り組みであったということで、取り上げておきます。

ここにおいては、スキー場はおろか夕張市全体が破綻する悲劇を招きました 7。訪問時、立派なホテルは野ざらしでした。

今期はスキー場のみが開業したようです。こちらもトマム同様、中国資本が流入し、再建の時期を狙っているようです。日本人の夢がどんどん萎んでいく、そんな風景の中の一つです。

サーム千歳ドミニオ

さて、この数回、この連載の北海道編では、網走からずっと南下して、ようやく札幌方面まで来ました。トマムの単純往復ですと、新千歳空港利用がもちろん便利です。

旅の最後に、別のガラ権を追加です。新千歳空港すぐ近くに、RCIジャパン加盟のガラ権があったのはご存知しょうか?

筆者はかなり以前、新千歳空港からレンタカーで乗り出す時、空港南周囲を回って見に行ったことがありますが、廃墟的であったので中には入らず写真も撮っていませんが、ガラ権施設「サーム千歳ドミニオ」を、語り部として記録しておきます。

リゾートというよりも居住用のマンションがガラ権化したもので 8、バブル期には新千歳空港にも拠点を持って北海道各地で遊ぶという贅沢なニーズに支えられたものでした。

マンション群のシンボルタワーとして、ガラ権利用のフロント施設として造られたのが「サーム千歳ドミニオタワー」であり、それ相応に洒落た建物でした。

Googleストリートビューで見るサーム千歳ドミオタワーの勇姿(移動等の操作が可能ですのでお試しください)

サーム千歳ドミニオのマンション群は今は居住用として普通に利用され、各部屋は中古マンションとして取引されている模様です。新千歳空港の近くであり、周辺も住居地として開発済みの都会のマンションですので、これはこれでそのまま残っていくものとなります。

(この項終わり)

関連記事

以下の関連記事も併せてご覧ください。

会員制リゾートが世界一を目指したあの頃(前編)

会員制リゾートが世界一を目指したあの頃(後編)


  1. 星野リゾート トマム - リゾート開発の経緯からアルファ・コーポレーションの自己破産まで - Wikipedia ↩︎

  2. 星野リゾート トマム - 加森観光運営から星野リゾートとの2社運営まで - Wikipedia ↩︎

  3. 星野リゾート トマム - 星野リゾート運営 - Wikipedia ↩︎

  4. タワー会員用ページ:トマム会員専用 ご宿泊予約|星野リゾート トマム【公式】 ↩︎

  5. ヴィレッジ会員用ページ:The Village Alpha ↩︎

  6. マウントレースイ - Wikipedia
    2007年に夕張市が財政破綻した後、運営を受託したのは加森観光。 ↩︎

  7. 中田鉄治 - Wikipedia ↩︎

  8. サーム千歳ドミニオはマンションデベロッパーのリベレステが分譲した。以下、北海道と関係のない脱線。リベレステは「裏磐梯猫魔ホテル」を2004年に買収し、加森観光へ運営委託した。同ホテルの運営は2013年から星野リゾートになり、「星野リゾート 裏磐梯ホテル」となった。2015年にリベレステは同ホテルを譲渡。現在はカタログ通販のベルーナが「裏磐梯レイクリゾート」として営業中。
    星野リゾート 猫魔スキー場 - Wikipedia ↩︎

文・撮影:zukisansu、企画・制作:resortboy。バックナンバーはこちら

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