キロロリゾートから山道をくねくねと南下すると、しばらくしてニセコエリアの北端の町、倶知安に出ます。晴れていれば、ここ倶知安手前から見えるはずの「羊蹄山」。今やニセコは日本を超越して、世界の有力スキーリゾートの一つに数えられるほどに成長したのも、いろんな意味で、この山のおかげと思います。
今回は、この広大で歴史も複雑なニセコエリアのリゾートの数々を見て歩く前に、羊蹄山を時計回りに進み、「ルスツ」に行って来ようと思います。ここははじまりこそ他社開発でしたが、それを買い取ってから40年以上に渡って、たった1社の手で開発・運営されて続けて来たリゾートです。
加森観光はルスツからはじまった
北海道のスキーリゾートはそれぞれがとても大きいので、一度の旅行でキロロとルスツを「滑り回る」と言うことは考えられませんが、リゾートの「見て歩き」だけなら回れます。ただし、雪深い場所ゆえ、春から秋の走行でお願いします。
「ルスツ」は地名であり、「留寿都」と書きます。アイヌ語で「山のふもとに道がある場所」との意味らしく、漢字表記は当て字ですが、村は漢字を使っています。
ルスツリゾートは、元祖ニッポンの再生請負人とも言える北海道ルーツの総合レジャー企業「加森観光」が単独で開発したリゾート地であり 1、日本最大クラスのスキーリゾートです。スキー場サイト大手の「SURF&SNOW」によると、2022-2023における総合ランキング1位はルスツリゾートでした 2。「オリコン」でも同様の評価を得ています 3。滑走のコースは37コース、全長42キロです。
ルスツのここまでの発展は、ほぼ加森1社で行われ、1981年の経営引き継ぎ以来、破綻や買収とは無縁でした。いわばルスツは加森が大事に育てて来た、「御本家施設」と言えます 4。
現存する加森観光の施設(リゾート会員権「加森バケーションクラブ 5」の施設)の紹介としては、本連載では「サホロ 6」に続いて2度目となりますが、その時書いた通りで、同社の沿革と会員権そのものについては複雑多岐に渡るため、今回も取り上げず、この巨大再生請負人の御本家施設であるルスツリゾートが、どのような内容であるのかを概観してまいります。
今回もまた、Wikipedia 7 や札幌学院大学現学長の河西邦人氏のレポート 8 を参照させていただきました。残念ながら、筆者はここでスキーをしたことがないため、紹介するには経験が十分ではありませんが、現在に至るルスツの成功の要因を、河西氏のレポートと筆者のリゾート経験による私見を交えて考察してみたいと思います。
1:再生からスタート
加森観光によるゼロスタートでなく、開発済みのスキー場の再生から始まったので、当初の設備投資が少なくて済んだ。
トマムもキロロも新規開発ですが、ルスツはそもそものスキー場は買収したものでした 1。
加森がその後手掛けたサホロも再生物件ですし、手を引いたトマムや夕張もその他も、再生から手がけるのが加森のスタイルであり、資金効率、経営的キャッシュフローが大幅に良いという特徴があります。再生物件をさらにガラ権化して錬金するのは、エクシブもそうでしたが、非常に利幅が稼げます 9。
2:アクセスのよい立地
次に、ルスツは交通の要所にあり、アクセスが良い大型スキー場であったという点。
本稿では、キロロからの見て回りとして、雪のない時期に南下ルートを取りました。しかし、スキー場としては豪雪の時期に行きますので、千歳空港からのアクセスが推奨されます。
支笏湖の周囲を経て、1時間半のスキーバス等での移動は無理がありません。札幌から行く場合も、雪の難所・中山峠越えより千歳回りが使われると思います。
札幌や千歳から西・南にある他のスキー場が目的地の場合(一番大物はニセコエリア)においても、羊蹄山を回るルートを取るしかないため、必ずルスツ付近を通り、宣伝効果は抜群です。何度も通るうちにいつか行ってみたくなりますから、集客がやりやすいと言えます。
3:No.1ブランドの確立
加森がルスツを北海道No.1スキー場にするという意気込みをもって育て、着実な運営と、船頭の多くない加森だけによる計画の推進が功を奏した。
トマムやキロロよりも、再生案件だけにルスツがスキー場としては先行しています。北海道NO.1としてブランドが確立すれば、自然に来客は増えるという定石に、まっしぐらに進んだのが正解でした。
4:通年総合リゾートとして開発
スキー場としてだけでなく、エンターテイメント性に早くから取り組み、通年の総合リゾートとして開発した。
夏のレジャー施設としての遊園地 10(60施設以上)、72ホールのゴルフ場 11、全部で820室3,000名以上の宿泊キャパシティを確保 12、シンボルタワーとなる「ルスツタワーホテル」(現・ウェスティン ルスツリゾート)に隣接して、大型会議場を設営 13。
ルスツタワーホテルは1993年開業の23階建て高層ホテルで、ルスツのランドマーク的建物です。世界的にも今もって珍しい全室メゾネット(2階建て)で、76平米以上の客室数は210。2015年12月にウェスティンにリブランドして営業中です 14。
さらに現在は、ホテルコンドミニアムの販売も行われており、分譲したのは加森ではありませんが、本館(ノース&サウスウィングホテル)に隣接した「The Vale Rusutsu 15」(2020年開業)があります。
このように、サマーシーズンの集客はアメリカ本土のスキー場運営でも課題ですが、早くから取り組んでいる姿が見えます。
5:モダンなゲレンデ開発と拡張
ワールドスケールのゲレンデ構成を勉強し、ゲレンデ拡張に熱心であった。
加森には、コロラドの歴史的名門「スティームボート 16」と、カリフォルニアの全米トップリゾート「ヘブンリーバレー 17」の2個所のスキー場を取得していた経験から、これらを真似ようとした様子が伺えます。
旧大和ルスツ時代のものに加え、斜面を2つ切り開いてゴンドラを中心に近代的なゲレンデレイアウトを採用し、これら米スキー場の名前を冠しながらコースを拡充してきました。
また加森はこれらのスキー場を1997年に売却することで差益を得て、同年の拓銀破綻などのバブル後始末の時期を乗り切ります 18。その後も、スティームボートとスキー場の相互利用を計画するなど、海外スキー場との関係は続いています 19。
6:地元の満足度アップ
地元の雇用促進と満足度アップ、税収への貢献、観光客の増加などにより、協調性ある運営を旨とした。
加森の再生手法で特筆すべきことは、その施設のある自治体が満足する努力を惜しまないことであって、政治的に軋轢を生まないようにして、運営に協力してもらいやすい環境を作り出してきたことです 20。
ルスツはもちろん、米国のスキー場に関係していた時も、トマムの運営を手がけていた時も、最大限地域の発展に努力したようで、地元の政治家からの評価が高いようです。筆者は加森観光について「政商」という言葉が浮かびます。
ルスツリゾートは以上のような特徴から、バブル時代を乗り切り、今も順調に思えました。今後についても、米国で学んだご子息が後継ぎとして帰国しておりますし 21、インバウンド対応を含めて、これまで通りの堅実経営を守りつつ発展していくのだろう。そんな風に思われた「安心の見て回り記」でした。
同リゾートは、1972年に大和観光が開設した「大和ルスツスキー場」(現在のWest Mt.)が祖となる。大和観光が倒産した際、留寿都村からの依頼を受けて「登別温泉ケーブル」が1981年に設立し、同スキー場を引き継いだのが加森観光である。 ↩︎ ↩︎
ユーザーが選ぶスキー場ランキング2022-2023 結果発表 | 口コミ・レビュー ‐ スキー場情報サイト SURF&SNOW ↩︎
ご先祖は、今も健在の「のぼりべつクマ牧場」とそのケーブル索道「登別温泉ケーブル」。さらにその先祖が札幌での貸しビル業「加森産業」。 ↩︎
【リゾート会員権】加森バケーションクラブ – リゾート会員権・加森バケーションクラブ。北海道ルスツリゾートをはじめ、全国の多種多様なリゾート施設、ゴルフ場、スキー場などのエンターテイメント施設をご利用いただけます。 ↩︎
ラベンダーが美しい初夏の富良野からサホロへ|会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎
リゾート会員権論 5「バブルの破綻物件がビジネスを変えた」|KASA Community – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎
・ウェスティン ルスツリゾート
・Hokkaido's Premier All-season Resort | The Westin Rusutsu Resort ↩︎・Colorado Ski Resort & Vacation Destination, Steamboat Resort
・全米2位のスキー場、加森観光が買収。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞
・Ownership history of the Steamboat Ski Area | SteamboatToday.com ↩︎・California Skiing & Snowboarding | Heavenly Ski Resort
・加森観光、米スキー場買収――付帯設備含め120―130億円。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎売却報道は8月、拓銀の破綻が11月。鮮やかな経営判断と言うほかない。
・米スキー場を売却、加森観光、100億円超す差益。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞
・加森観光は米国のスキー場、リゾート施設を米国社に売却し事業を縮小 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎ここが「再生屋」であっても、星野リゾートとの大きな差異であると、制作のresortboyは認識している。 ↩︎
札幌にUターン移住。スノー事業で北海道から日本全体を盛り上げたい ワープシティ|地方移住を考える人のお役立ち情報サービス ↩︎
zukisansuさん、ルスツタワーホテルの詳しい歴史的レポートありがとうございました。
これで分かりました。「なぜ、ウェスティン・ルスツリゾートがこんなにも快適に滞在できたのか」ということを。
私はコロナ禍の2021年7月7日からルスツタワーに2連泊して、色々な(嬉しい)驚きがありました。まず、第一に、この壮大な超高層ホテルの全室が2階建メゾネットスイートだったことです。私の部屋は独立したベッドルームが1階と2階にある2ベッドルーム(合計4ベッド)で、客室面積は94㎡もありました。
このメゾネットスイートの詳細レポート(旅行記)は以下にあります。
◎ウェスティン・ルスツリゾート滞在(メゾネット・スイート編)
https://4travel.jp/travelogue/11702844
驚きの第二は、非常にサービスが行き届いていて、コロナ禍でも最大限努力して集客・サービスに努めている感じを受けました。特にマリオットの上級会員(プラチナ以上)に対するきめ細かな対応は特筆すべきものがありました。
その模様は次の旅行記に詳しいです。
◎ウェスティン・ルスツリゾート滞在(朝食・夕食・ラウンジ編)
https://4travel.jp/travelogue/11703040
zukisansuさんのレポートの最後に「米国で学んだご子息が後継ぎとして帰国しております」という文章に興味をそそられ、参考文献の21番を読んで納得しました。素晴らしい後継者です。
移住者プロフィール:加森 万紀子さん
「札幌にUターン移住。スノー事業で北海道から日本全体を盛り上げたい」
https://warp.city/posts/_VO5mI7JCKkr89tgyKwoQ
世界は激変していますね。しかも早い!日本の成功体験の想い出が捨てきれないシニア経営陣は総退陣し、若い子育てママさん達が経営の第一線で活躍できる企業・社会にならないと日本の未来は暗いでしょうね。
ルスツの(加森観光の)ファンで、毎年通っています。
何が良いって、同じ従業員の方がずっと変わらず迎えてくれるところ。
札幌〜ルスツ無料バスの女性添乗員、ゲームコーナーのお兄さん達、レストランのサービススタッフ…ああ、今年もまたここに来れて良かった、と心から思います。
詳しくは知りませんが、勤務形態や現場の自由度など従業員の個性を大切にする面で経営方針が優れており、長く勤められる職場なのでは?と想像しています。
「政商」という言葉には「政治家と結託し、敵を排除して金儲けする」イメージがありますが、地元自治体の関心事(雇用、保育など)に正面から取り組み、信用を得ているのだとすれば、政治の側からもタッグを組みたくなる「商人」ですね。会社は社会の公器、を体現しています。
funasan、belairさん、コメントありがとうございます。
funasanにはホテルピアノに続いて、歴史的な記録を付け加えていただいてありがとうございます。ボンヴォイのチタンVIPとして、実質的な最上階、21階に宿泊されたわけですね。脚注に書きましたが、23階は加森バケーションクラブ会員専用となっています。
ご記事の中で修学旅行のことが出てきますが、加森は修学旅行に力を入れていて、その関係でルスツのすべてのホテルのフロアマップが以下に公開されています。
教育旅行 施設概要 – 北海道 ルスツリゾート
その関係で引率向けにホテルの細かな資料もダウンロードできまして、ウェスティン ルスツリゾートのは以下にあります。全室の客室タイプがこれでわかるというマニア垂涎のものとなっておりますので、どうぞご覧ください。23階は出てきません(ウェスティンではないので)。
ウェスティン ルスツリゾート 全体平面図
funasanもbelairさんも、ルスツでのもてなし、スタッフのよさを語っていただいていて、やはりそうなのか、と再認識しました。
アルファリゾート・トマムのお客さんが、運営が星野に変わった後に、その文化の違い(断絶)を受け入れられずに離れていったことが思い出されます。