バブルのしんがりを勤めたローマ帝国貴族の館

「会員制ホテル今昔物語」は、35年に渡ってリゾート会員権についてウォッチされているzukisansuさんによる連載です。日本で独自の発展を遂げたリゾート会員権、すなわち「ガラ権」の歴史をたどることで、日本的文化とは何か、日本人とは何かを、過去に学び未来を見通す―そんな奥行きのある連載として、僕から特別にお願いし、zukisansuさんにしか語れないこのテーマでご執筆いただく運びとなりました。どうぞご期待ください。(企画・制作:resortboy)

resortboyさんのサイトに多いエクシブ会員の読者からすると、「南紀白浜ってエクシブ白浜のある場所だよね」と、反対側(エクシブの所在地で地名を覚えるという逆の発想)からこの地の名前を覚えている人も多そうですね(笑)。

というわけで、本連載の南紀白浜シリーズに「エクシブは出てこないの?」とご心配の方もご安心ください。南紀エリアのガラ権巡りはまだ続きますが、施設に1回分を充てて書くのは今回が「しんがり」となります。  

トンネルを抜けると

前回 1、ホテル川久の回で紹介した湯快リゾートの次の宿に、迷いはありませんでした。いよいよエクシブ白浜&アネックスに向かいます。

車でのアクセスから書きはじめます。ホテル川久からスタートすると、南紀白浜マリオットホテルを経由して、途中のガラ権銀座を眺めながら丘に登るルートとなります。観光名所に行かず、このような不審な動きをする方には「ガラ権マイスター」の称号を贈呈します(なかなか面白いですよ)。

ところが、途中で「道を間違えたかな?」と不安になるのです。南紀白浜空港(愛称は「熊野白浜リゾート空港 2」)の滑走路にぶつかる!と思ったら、なんとその下をくぐるという凄い体験。「空港の短いトンネルを抜けるとエクシブだった」という、白浜と名乗りながら、例のごとくの微妙な外れ感です。

オールドエクシブにありがちなのですが、エクシブ軽井沢や鳴門だと送りバント失敗でファール(軽井沢町であるが町境、徳島県鳴門市であるが県境)、那須白河だと大アーチで観客席に入るファール(那須と白河は別の県)、といったもので、白浜はキャッチャー真上に打ち上げたファール、という感じです。

滑走路下のトンネルを抜けてからカーブを抜け、本館前道路から入口への下り坂。本館エントランスは地下1階でした。さすがエクシブ、ほんの20分のドライブですが飽きさせません。

初滞在

実は筆者のエクシブ白浜詣では初めてのことで、うっかり本館入口を見落とし、さらに登ってアネックスに到着。待ち構えたスタッフに入口違いを指摘され、戻って入り直したのでした。

無事、白浜本館に着き、本館スイートに投宿しました 3。筆者は利用実費会員なのです 4。滑走路ビューに加え、眼下には「アドベンチャーワールド」も全部見えるという、最高のお部屋でした。

アドベンチャーワールドのライオンの吠え声で目覚める、という笑い話があるくらいですが 5、翌日は野生動物さながらに朝日を浴びて、快調にスタートしました。

朝食はアネックスでいただきましたが、細い外階段を登って行くというものでした。一般のホテルでは、こうした館相互の行き来についてはマイナス評価となりがちですが、会員制となると(エクシブに限らず)、こうした難点が愛着につながるというのも、面白い話です。

お天気もよく、本館とアネックスの施設内外を歩き回ってみましたが、古いのによくメンテナンスされていますし、高台にあるためどこにいても明るく、白い外壁が映えます。

パトリシアン・スパリゾート

本館は1989年4月開業、地上7階・地下1階、総室数102室。アネックスは、1993年7月開業、地上12階、総室数144室。2つ合わせて246室という、南紀白浜エリア最大級のホテルであり、スペック的に申し分のない立派な施設です 6

両館の建築時期の違いは4年ですので、本館もアネックスも、建物の形はかなり異なりますが、同時期の施設として見栄えは変わらないと思いました。

ところで、エクシブやその後のリゾートトラストのホテルは全般に、開発時にコンセプトやテーマを設けて、それを会員やゲストにも明示することで知られています。さて、このエクシブ白浜&アネックスのテーマは何だったのでしょう。

以下はresortboyさん所蔵の、およそ20年前のエクシブ白浜&アネックスのパンフレットです。表紙には「白亜の殿堂。パトリシアン・スパリゾート」とあり、「Patrician Spa Resort」と英文も書かれています。

そしてメインの見開き右上や平面図にも「Patrician Spa Resort」の文字が踊っています。このパトリシアン・スパリゾートなるものがこの地での開発テーマであったのでした。

日本有数の古湯である白浜温泉に立つことを示すのが「スパリゾート」であるとして、その枕となる「パトリシアン」の語源を調べて筆者なりに意訳すると「古代ローマの世襲貴族」となります 7。この丘の上に並び立つエクシブ白浜&アネックスの白亜の宮殿2棟は、開発コンセプトそのものにおいても「選ばれし者の保養施設」であったのでした。

空港とアドベンチャーワールド

目の前に拡がる滑走路に隣接して、選ばれし者の館を作った、と言うのはやや違います。航空写真で確認すると、南紀白浜空港の以前の滑走路が並行に近い形で西側にありますね。

開港当時はプロペラ機が発着する小さな空港で、滑走路はわずか1,200メートル。それがエクシブ開業後の1996年と2000年に拡張され 8、ジェット機が発着できる滑走路2,000メートルの空港になったのであり、むしろ空港が「選ばれし者」に近寄ってきたという歴史なのです。

次に、眼下に丸見えなので行かなくとも楽しめると評判のアドベンチャーワールドはどうでしょうか? こちらは1977年に開業し、順次拡大。一躍有名となったジャイアントパンダ2頭の来日は1988年で 9、エクシブ白浜本館とほぼ同時にこの地に降臨した感じです。

さらに興味深い事実があります。それ前回取り上げた、同じエリアのホテル川久との対比です。

エクシブの2棟は1989年と1993年の開業ですから、建築に2年を要した「異界」(ホテル川久のこと)が開業した1991年をちょうど真ん中に挟んでいたのです 10

運命の分かれ目

時はバブル期でしたが、下り坂に差し掛かろうとしていました。経営が甘かった「異界」は、1995年に一度消え去ります。一方、高台から異界を伺っていた「選ばれし者」にもバブル崩壊の波が押し寄せますが、そこはローマ帝国。1993年の白浜アネックスを最後に会員制ホテルの開発を中止します。

1997年のエクシブ琵琶湖開業まで耐えて危機を乗り越え 11、「会員制」を貫き通したのでした。

またこのアネックスから、エクシブにスーパースイートと言う概念が芽生えます。エクシブ淡路島のプライベートプール付きの部屋は特殊客室であり例外として、エクシブ白浜アネックスのXタイプはその後のSグレードの祖であるのです 12

最後に、「異界」をご覧になった方は、そこに世界中の素晴らしい材料(中国歴代皇帝が暮らした「紫禁城(故宮)」だけが使えたという「瑠璃瓦」など)が使われていることを知りますが、「選ばれし者」にも、大量のレンガが通路やベランダなどにびっしり敷き詰められています。

今は輸入も楽になったことでしょうが、1990年当時にこれだけの量のレンガを買い付け、敷き詰める作業は、異界のクラフトマンシップの向こうを張る、ローマ帝国の威厳であります。この手抜きのない作業のおかげで、白とレンガ色のコントラストがマッチし、南国情緒が漂う明るい建築物となりました。

南紀白浜中心エリアにて、平民ファミリーの館である「湯快」で「異界」を眺め、そしてローマ帝国の貴族の館「エクシブ」を堪能し、歴史的ホテル群を堪能できた白浜旅でありました。


  1. 忘れ得ぬガラ権、異界に導かれて|会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎

  2. 熊野白浜リゾート空港
    南紀白浜空港の愛称が決定しました! | 和歌山県 ↩︎

  3. 本館 スイートグレード(Eグレード)|客室|エクシブ白浜&アネックス|ホテル|リゾートトラストグループ サービスサイト ↩︎

  4. エクシブの初期6施設(鳥羽、伊豆、白浜、軽井沢、鳥羽アネックス、淡路島)は開業から2004年9月末まではパーソンチャージ制であり、その時点での利用料金は3,000円または3,500円であった。1994年の山中湖と白浜アネックス以降のすべての施設はルームチャージ制である。2004年2月に全施設のルームチャージ制への移行がアナウンスされ、同年8月末日までに申し出た会員はその後も現在まで、利用実費、すなわち上記の6施設をパーソンチャージで利用できる。
     ↩︎

  5. エクシブ白浜とJR白浜駅との送迎バスはアドベンチャーワールドを経由する。経由しても所要時間10分。なお、南紀白浜空港への所要時間は5分。
    ・エクシブ白浜アクセス|エクシブ白浜&アネックス|ホテル|リゾートトラストグループ サービスサイト ↩︎

  6. 大きすぎるので施設を持て余してしまい、現在ではエクシブ白浜本館は土曜日と繁忙日しか営業していない(アネックスは全日営業)。これは鳥羽本館と鳥羽アネックスの関係と同じ。
     ↩︎

  7. デジタル大辞泉(小学館)によれば、パトリキ【(ラテン)patricii】とは「古代ローマの世襲貴族。パトリシアン。」
    パトリキ - Wikipedia ↩︎

  8. 熊野白浜リゾート空港(正式名称:南紀白浜空港)の概要 | 和歌山県 ↩︎

  9. 沿革|ジャイアントパンダ日中共同繁殖研究サイト ↩︎

  10. 【キュレーションストーリー Vol.2】南紀白浜温泉 ホテル川久 | KINAN ART WEEK(紀南アートウィーク) ↩︎

  11. 以下は1993年からの5年間のリゾートトラストの売上高推移。エクシブは1997年のエクシブ琵琶湖から復活し、同年9月に同社は株式店頭公開を果たす。
     ↩︎

  12. 正式にはXとX1があるがすべて間取りは同じ。柱の位置の関係で面積が異なるため、枝番が付いている。スーパースイートルームで6名定員なのは白浜アネックスだけ。細かいことを言うと、ベランダの面積も多少異なる。部屋番号は、303、304、313、404、405、414、415、512、513、603、604、613、614の13室。
    アネックス スーパースイートグレード(Sグレード)|客室|エクシブ白浜&アネックス|ホテル|リゾートトラストグループ サービスサイト ↩︎

文・撮影:zukisansu、企画・考証・制作:resortboy。バックナンバーはこちら

2 comments

  1. zukisansuさん、「ローマ帝国貴族の館」とっても面白かったです。
    ・白亜の殿堂。パトリシアン・スパリゾート
    ・パトリシアンの語源は古代ローマの世襲貴族
    ・白亜の宮殿2棟は選ばれし者の保養施設
    ・開業はバブル絶頂期の1989年(本館)と1993年(アネックス)
    なるほど!です。

    昔の想い出で恐縮ですが、私は1度だけエクシブ白浜(本館)に泊まったことがあります。
    2008年6月16日からの平日4連泊、男のエクシブ1人旅です。エクシブ白浜「シングルプラン」利用。このプランは本館Aグレード洋室限定で、1人で泊まって1泊2食12000円(税・サ込)でした。夕食は6300円相当、朝食はコンチネンタルです。6月の平日はお客が少なくエクシブらしさをじっくり味わえる「安くて豪華な1人旅応援プラン」でした。

    当時の私はエクシブの凄さ、素晴らしさに魅了され、フォートラベルにエクシブ滞在記を精力的に載せていました。その時のエクシブ白浜4連載がありましたので下にアップしておきました。お暇な人はご覧ください。今、思い返してみるとオールドエクシブ黄金時代で、エクシブオーナーの自分(当時56歳)が、まさに“選ばれし者、古代ローマの世襲貴族”に思えて大満足しました。エクシブ白浜の宣伝文句は嘘ではありませんでした。

    そして、このエクシブ白浜の旅は私にとって特別意味がありました。それは、私の「2度目のがん手術」後の最初の旅だったからです。2度目の手術では首のリンパ節に転移したがんを広範囲に切除したため後遺症がひどかったです。首が痛くて動きません。肩も痛くて自由に動かせません。自宅でじっと療養しているだけの最悪の日々を過ごしていました。その癒しの旅の第一弾がエクシブ白浜4連泊だったのです。白亜の殿堂、選ばれし者の保養施設で私は本当に癒されました。リゾートトラストには感謝しかありません。(当時は、です。)

    ◎エクシブ白浜(施設編)
    https://4travel.jp/travelogue/10249633
    ◎エクシブ白浜(グルメ編)
    https://4travel.jp/travelogue/10249880
    ◎エクシブ白浜(部屋タイプ比較編)
    https://4travel.jp/travelogue/10250396
    ◎エクシブ白浜(周辺観光編)
    https://4travel.jp/travelogue/10250187

  2. 編集担当resortboyです。funasan連載の担当でもありますww

    以下の2つの記事は、「旅と健康」という切り口で、上記にご紹介いただいたエクシブ旅を振り返ったものになります。どうぞ本記事と併せてご覧いただくと、立体的にお楽しみいただけるのではないかなと。

    心身を癒やした手術後のエクシブステイ – 1|がん患者よ、旅に出よう! – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究

    心身を癒やした手術後のエクシブステイ – 2|がん患者よ、旅に出よう! – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究

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