私説「がん勝利の方程式」をご紹介します – 1

「がん患者よ、旅に出よう!」は、トラベルライターの舟橋栄二さんによる連載です。早期退職でリゾートライフを満喫する日々の裏には、2度の手術を含めた「がん」との闘いがありました。「旅は生きる喜び。その喜びをがんに奪われたくない」
本連載は「旅を通して転移がんを克服した全記録」です。(編集担当:resortboy)

私は夏の暑さが苦手で、いつもエアコンの効いた涼しい部屋で、コーヒー片手に甘いクッキーを食べながらパソコンをするのが至福の時でした。今でもそうです。

旅行記や本の執筆に夢中になってくると、息を凝らしてキーボードを叩いています。ふと気が付くと、「息をしていないな~」と感じる時もあります。

私と同じように涼しい部屋でパソコンに向かって仕事をしている人も多いと思いますが、実はこの「低体温」「低酸素」「高糖質」は、がん細胞が最も喜ぶ環境だったんですね。

ヒトのエネルギー生産の仕組み

前回のfunasan日記(第26回)で体温発生のメカニズムを書きましたが、今回は、食べた物が消化吸収され熱エネルギーに変換される「代謝」についてです。ちょっと難しいですが、がん細胞の本質に迫るために、栄養と代謝のお勉強をしてみたいと思います。

私は次の本から多くを学びました。

「がん」では死なない「がん患者」 栄養障害が寿命を縮める(東口高志、光文社新書、2016年5月)
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糖代謝のメカニズムは非常に難しいのですが、がん増殖の核心に迫るために、上記の本のP34~P46を参考に、以下、要点をまとめました。

体内のエネルギーの元はアデノシン三リン酸(ATP)です。ATPは心筋や骨格筋などの筋肉が収縮するエネルギーとして使われます。ATP分解酵素によってATPが加水分解するとアデノシン二リン酸(ADP)になり、この時、エネルギーが放出されます。

食事をすると食物内の糖質は体内の消化酵素によって代謝されブドウ糖になります。このブドウ糖は血流に乗って全身を巡り、すい臓から分泌されたインスリンの働きで細胞内に取り込まれます。

細胞内に入ったブドウ糖1分子は代謝されてピルビン酸になり、2分子のATPが生産されます。この過程を解糖系と呼びますが、酸素が不足すると、さらに解糖が進みピルビン酸が乳酸に変わります。これが嫌気性解糖です。

ブドウ糖1分子で2分子のATPしか作れませんので、効率が悪いです。しかし、瞬時にエネルギーを供給するので、燃料の糖質をどんどん燃やして(糖質を爆食いして)ATPを作っていきます。燃費は悪いが瞬発力のあるエンジンです。

この解糖系によって30~60秒程度の最大限の筋収縮が可能で、運動では、無酸素系の短距離走や筋肉肥大を目指す筋トレに相当します。解糖系の特徴は「低酸素・低体温・高糖質」です。

(画像出典:Wikipedia。copyright:Fvasconcellos、RegisFrey、ふわふわ)

一方、酸素が十分にあると解糖系で作られたピルビン酸は細胞内のミトコンドリアに取り込まれます。そして、TCAサイクル(クエン酸回路)に入り2分子のATPが、さらに電子伝達系で34分子のATPが生産され、合計36分子ものATPがミトコンドリア内で生産されます。これが好気性解糖です。

ただし、この時、体内にビタミンB1とコエンザイムQ10が十分にないと、効率よく好気性解糖ができません。

ミトコンドリア系は瞬間的なエネルギー供給ができない代わりに、解糖系の18倍ものATPが生産され、少ない糖質で多くのエネルギーが持続的に供給されます。

運動ではジョギング、自転車、水泳など、有酸素運動に相当します。ミトコンドリア系の特徴は「高酸素・高体温・低糖質」です。

がん増殖のロジック

さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本論です。実は、がん細胞は酸素があっても嫌気性解糖をするのです。この理由はまだよく分かっていないそうです。

上記書籍のP45からの引用です。

がん細胞では嫌気性解糖で乳酸が作られます。作られた乳酸は肝臓に入り代謝されてブドウ糖に戻りますが、このとき6ATPのエネルギーを消費します。つまり、解糖系で2ATPのエネルギーを生んでも、できた乳酸をブドウ糖に戻すために6ATPを必要とします。この回復機構を「コリサイクル」といいますが、この機構にも限界があります。疲労物質である乳酸が溜まるうえに、エネルギーもマイナスになり、身体がだるくなるのです。

恐いですね。がん細胞は分裂が激しく、糖質を爆食いしてどんどん増殖していきます 1。がん患者のエネルギー収支はマイナスになり、身体がだるくなります。

さらに、がん細胞はサイトカインなどを放出して、筋肉のタンパク質や脂肪の分解を加速させるそうです。がん患者は急速にやせていき、最後には動けなくなります。

これが、がん増殖のロジックです。

(続く)

【次回】第29回・私説「がん勝利の方程式」をご紹介します – 2

【前回】第27回・低体温だった私の「体温アップ大作戦」- 2


  1. (編集部注)糖質とがん細胞との関係については諸説あり、本記事とは異なる主張として以下の記事を紹介しておきます。糖質はがん細胞のエサ?誤解が多い「がん治療中に相応しい食事」| JBpress ↩︎

本連載が単行本(紙の書籍)として刊行されました

本連載は、本サイトに掲載した舟橋栄二さんの記事から、がん闘病に関する回を再配信したものです。時期に関する記載は2022年現在のものです。

(本連載記事一覧)がん患者よ、旅に出よう!
(スペシャル対談)私のリゾートライフの全体マップ
(筆者ホームページ)舟橋栄二「第二の人生を豊かに」

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