前回は、東京ベイコート倶楽部の契約書を見ながら、来年からの値上げが発表された「運営管理費」(いわゆる年会費)について、その定義を確認しました。同ホテルは成り立ちが特殊なので、今日はホテルチェーンであり相互利用前提であるエクシブについて検討していきます。
東京ベイコート倶楽部は当初、エクシブと独立した単独のリゾートクラブで他に施設がありませんでした。そのために年会費の利用目的も「本物件」、すなわち同ホテルに限定されていた、と解釈することもできます。そこで今日は、エクシブ箱根離宮の契約書(開業前に僕が実際に契約したもの)で、年会費の内容について、改めて確認してみます。
エクシブ箱根離宮の年会費規定
さっそく、該当部分を引用します。運営管理費については、「管理規約」の「第13条(運営管理費)」に明記されています。
(運営管理費)
第13条 本物件の維持管理および運営に必要な下記の費用に充当するため、各オーナーは、施設相互利用契約書に定める運営管理費を負担する。
1. 管理・運営要因経費
2. 管理共有物共用部分の清掃費
3. 管理共有共用部分の水道光熱費
4. 本物件の損害保険料
5. 共用備品購入費
6. 本物件の保守、点検、補修費用
7. RCI年会費
8. ワンダーネット年会費(ただし、ワンダーネット会員のみ)
9. その他維持管理および環境維持に要する費用
東京ベイコート倶楽部とほぼ同じですが、細かいところが違います。例えば、2項、3項で「共用部分の」という文言があったり、6項にあった「(ただし、施設利用契約第22条に該当する費用は除く)」という但し書きがありません。
オールドエクシブの契約書もありますので、だんだん歴史を遡って検証してもいいのですが、それは今後のKASAの会(2024年5月25日の東京開催はリゾートトラストについて検証する予定ですので、この契約事項について取り上げたいと考えています)でやることとしましょう。
開業順は東京ベイコート倶楽部よりも箱根離宮の方が後ですが、契約の「運営会社から見た有利さ」は東京ベイコート倶楽部の方が勝っていますので、ここでは箱根離宮の契約書を「より過去のもの」と位置づけて検証を続けたいと思います。
(番組の途中ですが告知です。3月30日にオフ会を5年ぶりに名古屋で開催します。東海地方の方、この機会に是非ご参加ください)
エクシブでも年会費の目的は契約物件の維持
今日の写真は箱根離宮の日本料理レストランのエントランス部分です。ここはレストラン利用にしか使われない部分で、契約書にもレストランはリゾートトラストの専有部分で共有部分でないことが明記されています。
つまり会員の年会費は、この写真に見える部分の清掃には使うことができません。
また、上記「施設利用契約第22条に該当する費用は除く」という部分は、補修費用(修繕費)についての記載ですが、これについては別稿で再度検討したいと思います。
東京ベイコート倶楽部と箱根離宮とでは若干の違いがありますが、文言も含めて考え方はまったく同じです。すなわち、この条文冒頭にあるように「本物件」、この場合は箱根離宮が対象となっています。
相互利用を前提としたエクシブにおいても、年会費は、共有制リゾート会員権における分譲部分かつ共用部分に対して、その維持管理および運営に使われる契約となっていることが確認できました(ホテルチェーン全体とは関係がありません)。
専有部分の修繕や清掃はルームチャージ
一方、客室(分譲された会員持分)やレストラン(リゾートトラスト専有部分)などで行われるホテルサービスは、年会費とは別物と考えられています。
再度まとめると、年会費とは、分譲された物件の維持管理目的のもので、その重点は共有部分にあります。一方、客室内の維持管理は専有部分と解されるため、ルームチャージ(または利用実費)においてカバーされます(管理規約第14条)。専有部分の消耗品の修繕・買い替えは、ルームチャージで賄われると書かれています。
前回、日本のリゾート会員権における年会費と都度費用の二重徴収の関係性について、前者はハード的、後者はソフト的、と総括的に表現しましたが、リゾートトラストの場合それは少し外れています。リゾートトラストの契約においては、建物の多くを占める専有部分の維持(ハード的)の原資はルームチャージと定められていました。
このような考え方があるため、エクシブの年会費は相対的に「安い」水準に設定されてきたことが理解できます。東急ハーヴェストクラブのようにホテル全体を共有するのではなく、もともと客室単位で分譲していたオリジナルのエクシブの歴史がここに現れています(箱根離宮はフロアシェアで、グレード別のフロア構成になっており、購入階によって持分割合が異なる)。
エクシブ開業以来、据え置きだったのは何故か
さらに検討を進めましょう。なぜリゾートトラストは数十年も年会費を据え置きにしてきたのでしょうか? ルームチャージは制度変更も含めて何度も値上げしています。しかし年会費はエクシブ鳥羽開業以来、38年もの間、据え置かれました。その理由は僕は明らかだと考えています。以下にその背景を説明します。
それはおそらく、同社がもともとホテル業ではなく、分譲マンションなども手掛ける一般の不動産業者であったからではないでしょうか。つまり、エクシブおよびベイコート倶楽部における年会費とは、マンションと同様に「区分所有法」の下で解釈されるものであると同社は考えてきたけれど、今回、その考えを変更した、と、そういうことではないでしょうか。
区分所有法第31条には以下のようにあります。
第31条 (規約の設定、変更及び廃止)
規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
これに対して、弁護士の篠原みち子氏は、マンション管理業協会のWebサイトで、以下のように解説しています。
規約の本文に、「管理費等の額は別表第○の通りとする」のように記載され、別表が規約の一部とみなされるような場合には、管理費等の改定は規約の変更に該当し総会の特別決議が必要です。
(出典)弁護士 篠原みち子先生のマンション管理お役立ちコーナー|一般社団法人 マンション管理業協会
リゾートトラストの場合、契約書は複数の契約が一体となって冊子化されており、管理費の金額も規約の一部とみなされるのは形式的に明らかです。分譲された会員持分が上記、区分所有法によってその秩序が守られるとするならば、権利者(会員)が管理を委託した運営会社が単独で管理費を変更することは違法になります。
もちろんリゾートトラストは、立派な会社として世にその存在を認められ、また監視されてもいる「パブリック」な存在です。そのような立派な会社が、このような行為を行うはずはないと考えられます。間違っているのは僕の方でしょうか?
resortboy さま
このたびは、非常に興味深い問題を提起していただき、ありがとうございます。
「区分所有権をベースにした共有制リゾート会員権」に関する文献・裁判例が見つかればよいのですが、なかなか見つかりませんね。
どなたか、文献・裁判例をご存知の方がいらっしゃったら、教えてください。
そして、resortboy さま、引き続き本件に関する投稿、よろしくお願いします。
(私も自分の物件の管理規約等を改めて読んでみます。)
こんばんは、私も突然の郵便物に驚いた1人です。
担当営業の方によると、毎年施設ごとの区分所有者集会が開かれ、業務報告として「物件の維持管理・運営に関する報告の件」と題したペーパーが配られています。
今回私は2022年1月から12月までのエクシブ京都八瀬離宮、鳥羽別邸のペーパーを送っていただきました。
その冒頭には次のような記述があります。「エクシブ〇〇につきましては、当社と各オーナー様との間の契約等(不動産売買契約、 施設相互利用契約及び管理規約)に基づき、各オーナー様よりその運営・管理を直接受託させて いただいており、運営管理費等も直接収受しております。
エクシブ〇〇の運営・管理業務は各オーナー様から直接受託した当社が行っているため、 エクシブ〇〇管理組合自身は特に具体的な活動を行っておりません。そのため、エクシブ〇〇管理組合の活動内容としてご報告すべき事項はなく、また、エクシブ〇〇管理組合の収入及び支出はともにございません。」
何を言っているのかポカンとするより他ない文章ですが、マンション管理組合とは違うんだと言いたいのかも知れません。
マンション管理組合であれば収支報告書を作成し、全体でいくら収入と支出があったか、その収支の差額の累積はいくらになったかが明示されます。
しかしながら今回取り寄せたペーパーでは施設全体の収入の記載がなく、支出も全てが記載されてはいません。
八瀬離宮を例に取りますと、記載があった「おもな支出」は以下のとおりです。(単位:円)
・設備保守・管理業務(定期点検含む) 35,570,000
・水道・エレベーター・空調機械等の設備保守 30,860,000
・清掃業務(玄関・館内廊下・客室等) 286,860,000
・客室テレビ更新 25,520,000
・中庭水中照明整備 11,270,000
・客室ソファ入替 8,030,000
記載は以上のみで合計すら出ておりません。計算すると次のようになります。
支出合計 398,110,000
収入のほうは公開されている各グレードの26泊の年会費に各グレードの部屋数をかけてさらに14倍すればおおよそ求めることができます。実際はバージョンZだともう少し多くなるでしょう。
Sタイプ 261,800×40室×14=146,608,000
Eタイプ 195,800×24室×14=65,788,800
ラージ 146,300×122室×14=249,880,400
スタンダード 113,300×24室×14=38,068,800
管理費合計 500,346,000
収入のほうが1億円以上多くなりますが、あとどれくらい支出があったのかが不明です。儲けがあるのではないかとの疑念は当然に湧いてきます。
リゾートトラストととしてはこのような中途半端な報告書だけでなんとか値上げしたいようです。
EF66さん、法人税法さん、コメントありがとうございます。専門的な見地からのコメントや情報提供は、僕の研究の上でも、また、読者の皆さんが視点を得る上でも、とても助かります。
法人税法さんには離宮・別邸の「物件の維持管理・運営に関する報告の件」について、詳しく教えていただいて感謝申し上げます。連載の次回で、僕はこの件について自分の契約施設をベースに書こうと思っておりました。連載では、東京ベイコート倶楽部、箱根離宮と、現在のメインストリーム施設で議論してきましたので、ご提供いただいた八瀬離宮のデータをありがたく記事中で使わせていただきます。
引き続きよろしくお願いします。
初めて投稿させていただきます。
法人税法さんの投稿は、大変貴重な資料を提供していただいたと思います。
もう少し詰めれば、かなり実態が判明するのかなと感じました。
リゾートトラストは区分所有法3条に定める管理者に該当すると思います。
失礼ながら、このまま公開の掲示板で議論を進めても有効な議論にならないように
見えます。
なお、詳細をつめていませんが、ハーヴェストは区分所有の建物ではなく、建物全体を
共有しているので、区分所有法の適用外と思われます。
ぐんぐんさんこんばんは。なるほど東急HVCは区分所有法の適用外ですか。「建物全体を共有」と「専有部分を共有」の違いなんですね。そうなると次の疑問は、ベイコート東京や箱根翡翠のようなフロアシェアは区分所有に該当するのかどうかです。また最近のベイコートやサンクのような グレードシェアの施設も区分所有法の適用外になるのでしょうか。建物全体を共有すると処分の際には共有者全員の賛成が必要になると(うろ覚えですが)思っているので将来の建て替えなどのハードルは高くなりそうですね。
ぐんぐんさん、ノラさん、コメントありがとうございます。
ぐんぐんさんのおっしゃるとおりで、この件の議論の司会者として僕は実力不足ですので、解釈等については法曹界の方からのコメントを期待しつつ、僕はより俯瞰的な話題を取り上げていこうと思います。
resort boyさん
コメントいただき恐縮です。
法人税さんと協議するのであれば素晴らしい検討会に
なると思います。
resort boyさんは、ご賢察されるだろうし、法人税法さんにも
伝わると思いますので、3人でお会いするとしたらテーマは
区分所有法の強行法規制と原始規約の有効性
です(^^)
パンドラの箱というご意見が出て完全に終わった話題になってしまいましたが、八瀬離宮と同様に鳥羽別邸の管理運営費も計算してみました。
◽️収入
Sタイプ 233,200×30室×14= 97,944,000
SEタイプ 189,200×32室×14= 84,761,600
CBタイプ 146,300×59室×14= 120,843,800
管理運営費収入合計 303,549,400
◽️支出
設備保守・管理業務(定期点検含む) 26,120,000
水道・エレベーター・空調機械等の設備保守 15,940,000
清掃業務(玄関・館内廊下・客室等) 280,670,000
客室前庭整備 2,470,000
客室結露対策 1,370,000
濾過槽整備 7,680,000
支出合計 334,250,000
剰余金 -30,700,600
部屋数が八瀬離宮の6割ほどにもかかわらず、清掃業務には八瀬離宮と同じくらいの費用がかかっています。
そして収支としては意外なことに収入より支出の方が3千万円も上回りました。全ての費用があげられていませんから、赤字はもう少し大きくなるでしょう。
わずか2つの施設を試算しただけですが、施設により収支にかなり凸凹がありそうだということがわかりました。
そうだとするとRT社が各施設ごとに会員に細かい数字を説明することはしづらいのかなと思えます。京都の会員からしたら鳥羽別邸の会員に寄付しているようなものでしょう。
施設ごとでなく会社全体では2023年3月期の有価証券報告書によると連結ベースで運営管理費・年会費等収入が136億7,200万円となっています。しかし運営管理費の収支にフォーカスした記述はなく、対応する経費は損益計算書における修繕維持費52億8,400万円くらいしかわかりません。その他の費用は各勘定科目に散っているものと思われます。
マンション管理組合は通常任意団体の実費弁償方式として法人税はかかりません。したがって損益計算ではなく収支計算で良いわけです。収入のうち使いきれなかった部分は繰越収支差額として翌年度に繰り越され、翌年以降の費用に充当されます。
RT社は管理組合は活動してないものとして収益も費用も自らの損益計算に組み込んでしまいましたので、年度ごとに剰余金には法人税が課税されますし、積立金を設定しない限り剰余金が翌年以降の管理修繕に使われる保証はありません。
法人税法さん、大変貴重な試算データをありがとうございました。
とても重要なポイントをいくつもご指摘いただいており、感謝申し上げます。たぶん、僕がそれらについて、この公開の場でより理解を深めようとすることは、このサイトの存続危機につながると思いますので、きちんとしたお礼ができませんが、サイレントで多くの方が法人税法さんに感謝していると思います。
リゾートトラストの現社長も次期社長候補もメディカル畑の方であって、継続的なホテル運営について誰が責任を取るのか、という点があいまいなのも気になっているところです。