現代医療への疑問(ファミリーヒストリー 3)

「がん患者よ、旅に出よう!」は、トラベルライターの舟橋栄二さんによる連載です。早期退職でリゾートライフを満喫する日々の裏には、2度の手術を含めた「がん」との闘いがありました。「旅は生きる喜び。その喜びをがんに奪われたくない」
本連載は「旅を通して転移がんを克服した全記録」です。(編集担当:resortboy)

私は若い頃から山が好きで、夏は八ヶ岳・北アルプス方面の登山、冬は白馬八方・志賀高原のスキーと、山岳ライフを楽しんできました。若かった私は山に行くたびに思いました。いつか蓼科か八ヶ岳山麓の別荘を買って別荘ライフをしてみたいな~、と。もちろん「夢破れ…」ですが。

私は山好きが高じて、長男にも長女にも、山にちなんだ名前をつけたくらいです。子供たちが小さかった頃には、よく母を誘って蓼科や八ヶ岳方面を旅しました。いつも母は孫をとても可愛がってくれ、家族旅行している時の母は本当に幸せそうでした。今日は母のストーリーです。

母が54歳の時、首の周囲に大きなしこりに気づきました。愛知県のがんセンターで調べたところ、甲状腺(乳頭)がんと判明。がんは既に左右両方の甲状腺、さらに首のリンパ節にも広範囲に広がっていました。

8時間を越える大手術をしたにもかかわらず、主治医(外科医)は「肺に向かうリンパ節のガンは取りきれなかった」と話しました。私はショックでした。

さらに手術後に心筋梗塞になりかかり、心臓病治療も加わった入院は、1カ月にも及びました。

幸い当時の私は、大学を卒業し大学院へ入学する時期(1975年:23歳)でしたので、私は連日、母の見舞いに行きました。私が母に声をかけたり、ベッド脇で読書をしたりしていると、母は「もう見舞いはいいから早く帰って休みなさい」と、いつも言っていました。

自分が死ぬかもしれない大病と術後で身動きもできない苦しい状況にもかかわらず、母は息子の身を案じていたのです。そんな姿を見て、私は母の愛の強さを感じました。

甲状腺がんは、がんの中では一番進行が遅いがんと言われています。手術後の母は普通の生活をしていましたが、数年後、がんは肺に転移しました。治療として抗がん剤投与を始めましたが、母は一時意識不明になり、治療を中断して自宅に帰ってきました。

抗がん剤治療は中止になりました。しかし幸いにも、母はその後、10年間も普通の生活を送っていました。子供(私)の結婚や孫(私の子供)の誕生も見て、幸せに暮らしていました。

戦前生まれの母は、子供への愛情が人一倍深く、孫ができた時は自分の子供のように可愛がってくれました。妻がキャリアウーマンだったこともあって、子供が小さい時は母と同居して家事・育児の手伝いをしてもらいました。多忙な妻はいつも母に感謝していました。

そんな母への親孝行として、ときどき母を誘って孫連れ3世帯で旅行に出かけました。子供が幼児の時は近場の温泉からはじまって、小学生に上がる頃には信州にも足を延ばしたのは上述のとおりです。母ががんだったことを忘れたかのような幸せな日々でした。

ある年の冬、母は風邪をひき肺炎になりました。近くの町医者でレントゲンを撮ってもらうと、肺が真っ白で、その中にがんの丸い影がたくさん映っていました。驚いた主治医は、母を地元の総合病院に緊急入院させました。

しばらくは小康状態が続きましたが、肺がんと肺炎による酸素不足で母の意識はもうろうとなり、そのうち私が見舞いに行っても息子だとは分からなくなりました。母の顔は決して苦しそうではありませんでした。意識低下の恩恵でしょう。

父の悲惨な死を経験していたので、母には積極的な治療はさせませんでした。そして1カ月後、呼吸不全で安らかに眠りました。直接的な死亡原因は肺炎です。享年67。肺炎にさえならなければもっと生きたはずです。


父は病院のベッドの上で多数の計器を埋め込まれ、身動きもとれない状態で亡くなりました。兄は、最後は水さえも飲めなくなりました。父や兄に比べれば、母の死は幸せでした。

今、私は自由に旅ができて、何を食べてもおいしい。この幸せをできるだけ長く続けたい。でも、人はいつか必ず死ぬ。残念ながら「いつ死ぬか?」そして「どのような死に方をするか?」は誰にも分かりません。だから死が怖い!

次は私のストーリーです。

(続く)

【次回】第6回・私も、がん患者でした – 1

【前回】第4回・現代医療への疑問(ファミリーヒストリー 2)

本連載が単行本(紙の書籍)として刊行されました

本連載は、本サイトに掲載した舟橋栄二さんの記事から、がん闘病に関する回を再配信したものです。時期に関する記載は2022年現在のものです。

(本連載記事一覧)がん患者よ、旅に出よう!
(スペシャル対談)私のリゾートライフの全体マップ
(筆者ホームページ)舟橋栄二「第二の人生を豊かに」

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