会員権に含まれる「保証金」って何?

今日は、年会費(運営管理費)の話から離れて、それとセットで考えるべき会員が支払っている運営費用である「償却保証金」について見ていきます。

リゾートトラストは昨年、2023年4月に創業50周年を迎え、そのタイミングで新しい中期経営計画「Sustainable Connect」が発表されました。その中では、リゾート会員権を永続的なビジネスとするための取り組みについて、オールドエクシブの建て替えに言及するなど、かなり踏み込んだ意思表明が行われていました。

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サンクチュアリコートの特長「保証金割合」

その中で「成長戦略」として、当然ながら主力商品のサンクチュアリコートについての説明があります。以下の画像はそこからの引用です。

同会員権の特徴として、4つのポイントが挙げられていますが、今日注目したいのはその3番目「メンテナンス原資が多い」という部分です。

サンクチュアリコートでは、従来の同社商品よりも、保証金割合が「厚めに設定」されています。同社は現在15%と説明しています。

最新のサンクチュアリコート日光、ロイヤルスイート20泊タイプで確認してみます。販売価格が3682万円で本体価格が3400万円。消費税は282万円ですから、課税部分(保証金以外)は2820万円となり、保証金は差額の580万円です。これを本体価格で割ると17%となります。

僕はサンクチュアリコートの契約をしていないので、この保証金が何年で償却されるのかはわかりません。50年の期限付き会員権だから、50年なのでしょうか? それとも従来の同社会員権のように、30年の定額償却なのでしょうか。ご存知の方は教えてください。

償却保証金は管理費とセット

この保証金は、同社のほとんどの会員権で「償却保証金」となっています。オールドエクシブのオリジナル商品(再販売でないもの)で、1990年代までに販売されたものは、逆に多くが償却されない保証金です。つまり、解約時に無利息で一括返還されます(まぁ共有制リゾート会員権に退会の自由はないのですが)。

では、この償却された保証金はどのように扱われるのでしょうか。最新の有価証券報告書から公式見解を見てみます。

画像部分を以下に書き起こします。

当社グループは、会員制リゾートホテル会員権の会員に対し、会員制ホテルの維持管理及び運営に必要なオペレーションサービスを提供し、その対価として年会費及び償却保証金収入を得ております。

当社の履行義務は、年間にわたりホテルのオペレーションや管理、保守、修繕、清掃、保全を行うにつれて充足されると判断し、年間を通じて収益を認識しております。

このように、年会費と償却保証金は同様に、ホテルの維持管理および運営に利用される対価であると説明されています。サンクチュアリコートの特長説明にある「メンテナンス原資」という表現と整合します。

償却保証金の源流

現在の償却保証金の使われ方がおおまかにわかったところで、その「源流」をチェックしてみます。歴史を紐解くと、償却保証金の導入は1999年の4月であることがわかりました。

上記は同時の投資家向けの資料(インベスターズガイド)からの引用です。文章を書き起こしておきます。

一方、エクシブなどの当社の施設は経年に伴い少しずつ老朽化していきます。当社は、これら施設を快適な状態に維持するため、会員の持分の場所であっても当社の費用負担で保守点検を効率的かつ専門的に行ない、施設、設備、備品等の品質保持に努めております。

しかし償却資産である以上、長年にわたれば陳腐化、老朽化が進むのも避けられず、いずれ代替施設が必要になる事態も想定されます。その場合の建替資金は、区分所有法に基づき、オーナーである会員が負担することが原則ですが、一部の資金負担が当社に生じる可能性も否定できません。

そこで、これらの将来起こりうるリスクに対応し財務体質の健全化を進めるため、当社は1999年4月よりエクシブについて、また、2000年11月からはハイメディックの新しい会員について、「償却型」の保証金制度を導入いたしました。「償却型」保証金制度とは、償却資産の経年劣化の対応部分を毎年保証金から償却させて頂くシステムです。

この制度により、償却された保証金は返還義務から解放されるだけでなく、当社が内部留保することにより、将来の建て替え資金に備えることが可能になりました。

ここでは(2001年時点)、償却保証金をメンテンナンス費用としてだけでなく、「代替施設が必要」「建て替え」の時に、オーナー負担分では足りないだろうからそれを補填するための備えでもある、と、かなり突っ込んだ説明がされています。

建物維持の3つのレベル

ここまで見てきて、年会費で行うような小修繕から、建て替えの一部まで視野に入れて、同社は「都度徴収ではない形」でその原資を用意する考えであることがわかりました。

この考え方はリゾート会員権産業(世界的にもガラ権として見ても)において、リゾートトラストに独特なものです。なぜそうなったのか、ということについて僕なりの考えはあるのですが、本記事のフォーカスから外れるので、機会を改めたいと思います。

さて、これらの点について、この制度・方針を作ったと思われる当時の社長、伊藤勝康氏が雑誌「企業家倶楽部」インタビューで、もう少し詳しくこれらの事情について語っています 1。該当部分を引用します。

私たちは欧米の建物のように、長く使えば使うほど味が出るようなものを作ろうというのが当初からの考えであり、長期間のメンテナンスが不可欠です。そのために預かり金をいただいています。

その一部は償却させていただいていますが、今までの預かり総額は1千億円くらいになっています。ということは毎年10億円の改修があったとしても50年、100年は維持できる計算です。そういうことを考えた上で設計しています。

それ以外の小さなメンテナンスについては年会費の中からやっています。ただ壊れた時どうするのか。これは本質は別荘と同じで、分譲で持っていただいたものですから、客室が滅失したときは区分所有法に従ってもう一度オーナーさんに拠出していただくことになります。

ここでは、施設の営繕について、そのレベルを「小さなメンテナンス」「改修」「壊れた時」の3つに分けて、それぞれの費用負担は「年会費」「償却保証金」「オーナーが拠出」であると説明しています。この説明はすっきりした考え方であると、個人的には思います。

同書からさらに引用します。

毎年のメンテナンス分は経費で落として、預かり金の償却はそれに見合う形で収益に計上し両建てしているのです。つまりその償却分でメンテナンスしているのです。

これもまた、公認会計士でもある伊藤勝康氏らしい、明快な説明であると思います。

現社長は保証金割合を引き上げ

現在の社長は伊藤勝康氏から伏見有貴氏に交替しています(伊藤勝康氏は会長で、2名はともに代表取締役なので、交替というニュアンスは少し違うのかもしれません)。念のため、伏見氏の発言も紹介しておきます 2

また、修繕・営繕についても、おっしゃるとおり、たしかに必要になってきています。こちらについては、逆に、いま償却保証金の率を、随時、進行年度から見直しを開始していますので、こちらがイニシャルコストといいますか、将来的な運営収益に効いてくるようなかたちに、今期から随時変更をかけているところです。

これは2020年3月期第3四半期決算説明会の書き起こしで、話し言葉なので多少あいまいなところもありますが、言っていることはその後のサンクチュアリコートの商品性に現れていて、内容は明確であると思います。

以上のように、経営計画や有価証券報告書、また経営トップの発言を通じて、償却保証金については一貫した思想で施設維持費用として取り扱われていることが確認できました。

これから償却期間が終わっていく

最後に、この償却保証金が実際、どのような推移で収入に計上されているのかを、見てみます。これは2023年3月期の決算説明資料からの引用です。2020年3月期から計画も含めると2024年3月期までの5年分が載っています。

「保証金償却収入」と書かれているのがそれです。この収入は宿泊を伴うものではありませんから、年会費収入と同様にコロナ禍の影響を基本的に受けません。

2022年に保証金償却収入が伸びています。開業した横浜ベイコート倶楽部の会員分の償却分が通年で加算されたことが原因の1つに考えられます。その後はホテル開業がありませんから伸びていませんが、2024年には保証金償却収入が落ちています。これは、開業済みホテルから未開業ホテルに買い替えた会員の影響かもしれません。

償却保証金について、気になるのは、今後です。

今回の調査で、同社は1999年からこの制度を導入したことがわかりました。それから既に25年が経過しました。エクシブの場合、保証金の償却期間は30年ですから、あと5年経つと、順次、それら施設の保証金償却期間が終わっていきます。

この記事で検証してきたように、同社は十分に計画して施設維持の費用を都度徴収でない形で準備しています。ただ、償却期間が終わっていくオールドエクシブに関しては、もう少しメインテナンスの計画や情報を開示し、少なくとも契約施設に関して会員本人が、自らの義務を理解できる程度に、丁寧なコミュニケーションを望みたいと思っています。


  1. 「プロがプロに聞く経営の話 都心にセカンドハウス感覚の大型リゾートをつくる」(リゾートトラスト社長 伊藤勝康、オンキヨー会長兼社長 大朏直人)企業家倶楽部 2005年10月号, 企業家倶楽部, p41
    企業家倶楽部 10月号 (発売日2005年08月27日) | 雑誌/定期購読の予約はFujisan ↩︎

  2. リゾートトラスト、3Q累計は増収増益も計画未達 ホテルレストラン事業の営業益は前年比44.7%減 | LIMO | くらしとお金の経済メディア ↩︎

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5 comments

  1. 関東と関西では保証金の概念が違います。関東の保証金は預かり金で債務性があり返還するものですが、関西の保証金は関東の礼金の代わりです。
    償却割合が5割なら、5割は預り金で、5割は売り上げです。
    関東の場合
    住宅系---敷金・礼金
    事業用---保証金・償却
    関西の場合
    住宅系---保証金・敷引き
    事業用---保証金・敷引き
    名古屋は、関東型であると言われていますが、事業用賃貸では、償却があるのが通例だと思います。
    「保証金償却収入」は単なる売り上げで、何に使うかは何も縛りはありません(会計上のことですが)
    だから説明がないと納得出来ないということになります。

  2. オールドエクシブの償却期間が30年である点、気になります。修繕費は時の経過と共に増加するはず。
    当初は30年で建て替える、または大規模修繕の為オーナーに追加負担を求める予定だったのでしょうか。
    2023.5.24ブログ記事にある様に、RT社側に建物は50〜60年使用できる、という認識があるならば、償却期間「30年」に深い意味合いは無かったように思えますが…

    一般企業における固定資産の減価償却の場合、耐用年数が経過して償却負担が無くなると、費用(減価償却費)が計上されなくなるので(キャッシュフローは変わりませんが)会社の利益が増加します。
    RT社の決算の場合、保証金償却収入は無くなるけど修繕費はかかり続けるので、会社の利益が減少する結果になるのでしょうか。それをただ見過ごしてくれるほど、甘くは無いと思うのですが。

  3. HGVC38さん、belairさん、コメントありがとうございます。

    この保証金の件も、年会費値上げとセットで皆さんそれぞれにお考えていただければと思って記事をまとめました。これもまたパンドラの箱の類かと思いますが、重要な話題なのでできる範囲でこれまでの経緯(事実)をご紹介した次第です。

    ところで、冒頭の写真を見ていただけたでしょうか。これはエクシブ伊豆の営繕(外壁塗装)の様子ですが、実はもっといろいろな意味がこの1枚に込められています。

    まず最初に、主題でありますけれど、この営繕費用は誰がどのように捻出しているのか、という問題です。

    次に下部中央に見えている3号館(屋上芝生部分)です。ここにこれから何ができようとしていて、そのために既存会員との契約関係はどのように調整されるのか、という問題です。

    最後に、海に向かった先に見えている土地(ホテル敷地からの眺望方向にある隣地)では、相当な盛土を伴う造成工事が行われていることです(石が積まれているのが見える)。ここは誰の土地で、これから誰が何を作るのか、という問題です。

    いずれも答えはまだわかりませんが、いずれも個人的に注目している話題です。

  4. 東急軽井沢Retreatで導入された「施設利用保証金」は毎年4万4000円の定額で償却されるそうです。事実上年会費の上乗せですね。そもそも自己所有(共有)のホテルを利用するのになぜ保証金を積まなくてはならないのでしょうか。会員資格保証金はこれとは別に徴収されています。日本語がおかしいのか論理がおかしいのか、ちょっと破綻してます。

  5. ノラさん、情報をありがとうございます。東急の話題については、また折を見て、昨年末に報じた内容の続編を一度書かないとな、と思っています。

    特に、RESERVEシリーズに対するやる気(というかなんというか)については、もう一度、突っ込んでおく必要があります。これは会員権というものの、本質的な質的変化です。

    また、もはや大規模共有制の草津は実現しないだろうと、個人的には見ています。もしあそこを手掛けるようであれば、それは同社がバブルに踊ったことになるので、さすがにそれはないだろうと。

    ところで、本稿の続編として、RTの開発部と営繕部が合併することになったことを記事にしています。話としては、本稿でまとめたこれまでの方針(どんぶり勘定だが、当座の会員に取ってはメリットである一方、将来的に必ずババ抜きになる)をより強化したもので、経営として整合性があります。

    RTも東急も、この変化の時代に従来的価値観を強化しながら駆け抜けていく「時代の疾走感」があります。そんなことを感じているのは僕くらいでしょうが、ともあれ事実を報じていきたいと思います。

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