東急式錬金術の系譜 – 3(マーケットメイクによる価格形成)

今週末の勉強会に向けて、資料をどんどん先出ししていきます。今回は僕の知見が不足している分野ですから、事前に皆さんからのコメントで僕の認識不足を修正できればと思っています。今日は東急ハーヴェストクラブで特徴的な、東急不動産自らによるマーケットメイクによって価格が高騰している事例について、ごく簡単に触れます。ぜひ追加情報をお寄せください。

以前の記事で示したように、近年の東急ハーヴェストクラブの販売物件は、VIALAへのシフトと小規模開発という2つの大きな特徴があります。東急不動産は以前より(当然のように)この会員権の仲介物件(中古物件)を取り扱っており、価格をコントロールして売り手と買い手のマッチングを行ってきました。

(公式)価額一覧表|東急ハーヴェストクラブ|東急不動産の会員制リゾートホテル

新規開業物件の販売手法としては、開業前に縁故販売である程度の口数を、だんだん価格を上げながら、会員や見込み客に対して販売していきます。この10年ほどは仲介価格が直販価格を大きく上回る事例が目立つため、「それならば買い替えておこう」という志向性が顧客側には強く働きます。

これに前述の2つのベクトルが加わります。高級化(VIALA)と希少価値(小規模開発)によって、ダブルで飢餓感が演出されます。これは富裕層向けビジネスの王道・高額商品マーケティングの典型的手法と言ってよいでしょう。

こうして「内輪の顧客」での売買が繰り返された結果、新規開発物件と既存の優良施設(旧軽井沢、箱根甲子園、箱根翡翠、那須、伊豆山、軽井沢)の価格が、実需に加えてお互いにアクセルを踏むような形で高騰していった。外部からはそんな風に見えます。優良施設と新規物件は相互に刺激しあい、価格形成が既成事実となっていきます。

一方、業界ナンバーワンのリゾートトラストの仲介会員権価格がそうではない(価格が低迷)のは、同社が流通市場に手を出さず、ほぼネット情報のみで顧客が自ら勝手に勉強し、勝手に買う自由市場となっているからです。仲介業者は個人商店のような企業が主ですから、高額商品の売買を依頼するのをためらう方もいらっしゃるでしょう。そのため、もやっとしたリスクをすべて引き受ける覚悟のある人だけが市場に参加する「裸値」となっているわけです。

対する東急不動産は、一般に、「絶対に倒産しない」というイメージがあるのだと思います。「何があっても東急が守ってくれる」、そんな風に思ってこの会員権をお求めになる方もいらっしゃると思いますし、そこまで全幅の信頼でなくても、大いなる安心感のもとに取引が行われることでしょう。比較論ではありますが、不安が伴うリゾートトラスト仲介市場とは大きく異なる部分だと思います。

オフ会では、ご来場された実際の会員の方から、そのあたりの実情を伺ってみたいと思っているところです。

話をハーヴェストクラブの価格に戻します。データを集めるとキリがないのですが、今日は典型例として、「東急ハーヴェストクラブVIALA annex 熱海伊豆山」の開業時と10年後の現在を比較して、データを見てみたいと思います。

(公式)東急ハーヴェストクラブ熱海伊豆山&VIALA|東急不動産の会員制リゾートホテル

この会員権は47室に対して564口が販売されました(同ホテルの総客室数は182室で、他にハーヴェストクラブクラブ熱海伊豆山が125室、東急不動産が10室)。開業時の募集価格は税込909.5万円でした。内訳は、土地建物等代金:547.5万円、入会金:252万円、会員資格保証金:50万円、営繕充当金:60万円です。価格はすべて当時の5%の消費税込みです。

このホテルは一般定期借地権を利用し、開業から50年間で解散するクラブです。開業は2013年8月でしたので、すでに存続期間の2割が経過しました。

この会員権は現在、東急不動産はいくらで仲介販売していると思いますか? 驚くなかれ、2,760万円(税込)です。

仲介物件ですから、新規販売時にはない仲介手数料も必要で、新規販売にプラスされるオーバーヘッドは仲介手数料の約105万円と名義書換料 の132,000円です。他の諸費用も含めると、ざっと3,000万円がかかります。逆に言うと、初期投資額を総額3,000万円に設定して、そこから鉛筆をなめなめして決めたような印象すらあります。

その結果、この会員権の価格明細は、以下のようになりました。会員権利金が22,607,705円、土地権利金が54万円、建物代金が3,355,800円、会員資格保証金が50万円、営繕充当金が596,495円(これは60万円から日割相当分を引いたものと思われます)。

これらのデータから、消費税額(開業時は5%、現在は10%)の影響を排除して、価格の要素を積み上げグラフにしたものをご覧に入れます。

一番左が現在の価格です。これはすべて東急の公表データですから正確です。価格のほとんどを「会員権利金」が占めていることがわかります。これは一般に「入会金」と言われるものに相当し、メンバーシップを獲得するために支払う金額になります。

これが税抜で2,000万円を超えているところが非常に特徴的です。メンバーシップという形のないものに、これだけの金額を支払っているということが、どのように顧客に説明されているのかが気になります。果たして合理的な説明が法律に基づいてきちんとできるものなのでしょうか。そしてその説明をどのように理解されて、売買が行われるのでしょうか。

グラフの真ん中は開業時の直販価格です。計算してみると、土地権利金は現在と同額のようでした。赤が建物代金ですが、開業後10年を経過しているので減価償却して価格が目減りしています。また保証金と営繕充当金は同額(日割分を除く)の模様です。

グラフの一番右は、リゾートトラストの当時の会員権の販売価格(直販)の事例です。もっとも開業時期が近いものとして、エクシブ軽井沢 パセオ&ゴルフのCBタイプ(26泊:1/14)のデータを持ってきました。これはゴルフ会員権との複合会員なので比較対象として最適ではありませんが、同時の価格感として、価格帯がそっくりなので採用しました。

生データを記載しておくと、開業時の販売価格は8,867,410円(いずれも税込)で、登録料(入会金)が2,152,500円、償却保証金が850,000円、不動産代金が5,864,910円でした。グラフでは仮に土地相当分を伊豆山と同額にして表現しています。結果的に、当時(パセオは2012年、伊豆山は2013年)のリゾート会員権の値付けとして、両社に大きな考え方の相違は見られないことがわかります。

現在のVIALA仲介価格には、このようにメンバーシップ部分が2,000万円を超えている事例があります。これは経済合理性では説明の付かないものであり、東急不動産一社に対する、何か宗教的な信仰心でもない限り、一般には理解されづらい事象ではないかと感じます。

東急不動産はこの物件を販売する際、譲渡禁止期間を開業日より3年間と定めて(おそらくは契約事項として明記)分譲しました。しかし僕の知る限り、VIALA伊豆山に関しては開業1年半後には仲介販売を行っていて、自ら規約を守らず価格を釣り上げて販売した事実があります。

「東急がある限り」資産が保全されるというイメージがあるように外からは感じますが、現在のハーヴェストクラブはすべて有期のクラブであり、しかもリゾートを利用する人口はこれからどんどん減っていきます。

以下は以前の記事からの引用ですが、35歳から74歳の40年分に限った人口ピラミッドをアニメーションにしたものです。宿泊業はインバウンドの要素を排除すれば、明らかな衰退産業です。そしてあと40年足らずでこのクラブ(伊豆山)は解散予定です。

(関連記事)たまには未来のことを考えよう|番外編 – resortboy’s blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究

つまり、リゾート会員権の需要は現在がピークです。東急ハーヴェストクラブの優良物件の価格高騰が、限られた母集団の中での相互持ち合い的価格形成であり、それが東急に対する信仰に基づいているだけのものだとしたら、けっこう恐ろしい話だなと思っています。販売サイドがすべてコントロールした結果ですし、彼らは夢を売るビジネスマンなんですから。

リゾート会員権は資産ではありませんよ。

12 comments

  1. さすがです。
    よく調べられてると思います。

    確かに譲渡禁止期間3年ですが、倶楽部規約には、
    但し、東急不動産は短縮することが出来る
    と明記されています。

    >自ら規約を守らず価格を釣り上げて販売した事実があります。

    は正しい表現ではないかと思われますので、一応お知らせします。

  2. これは枝葉末節の話で、補足情報として。

    VIALA annex 熱海伊豆山の特別縁故会員の販売価格は、815万円でした。

    今から思うと安いですが、それでも当時は高いと感じましたが。

  3. リゾートねこさん、ご指摘ありがとうございました。そうなんですね。東急は規約で、自らに特権を与えているということなんですね。本文は契約事項に関しての誤認識を含んでいるのですが、ヘンに直すと話がつながらなくなってしまうので、最低限の修正として取り消し線を入れておきます。

  4. 私も現在のViala熱海伊豆山の価格は異常に思えてなりません。部屋とVialaラウンジ以外はハーヴェストと共有です。宿泊も私の様に平日中心であれば多少日時や部屋指定の制約はあるもののVialaの予約も取れます。初期に購入された方は良しとして新規にこの価格で購入するメリットは私には理解出来ません。バブル以外の何物でもない様に私は思います。

    熱海伊豆山はハーヴェストもVialaも既にご指摘の通り今から思うとかなり低価格の売出し価格でスタートしました。毎回10〜20万円レベルで価格を少しずつ上げながら開業まで数回に渡り販売をしていました。それでも更にまだ残りがあって開業記念販売も継続していた様に記憶しています。

    時代の変化なのか、マーケットも販売方針も大きく変わって来ました。売出しから限りなく市場価格で取引き出来るのであれば売側はそうしますよね。私はリゾートは利用してなんぼという考え方なのでただ静観するのみです。

  5. 開業時のVIALA熱海伊豆山の売出価格をみると、VIALLA有馬六彩が当初1100万円超で売り出されたのが、リーマンショックに伴う不況下で625万円まで価格修正したことが思いだされます。有馬六彩のVIALLAラウンジはグレードが高く、当初、VIALLA会員のチェックイン・アウトを担う予定でしたが、コスト削減でスタッフ常駐なし(現在の運用は不明)の運用になってしまいました。それ以降、VIALLの高級化は控えられていました。ところが、軽井沢、鬼怒川渓翠とVIALLAの価格戦略が変化してきて、高級化に舵を切ったものと思っています。

    resortboyさんは「宿泊業はインバウンドの要素を排除すれば、明らかな衰退産業です。」と言及されていますが、私はリゾート会員権業はあと15年はまだニーズが落ちないと考えています。2022年の人口動態データで、リゾート会員権のターゲット層を50歳以上70歳未満(100とする)とみなして、移動平均をとってみると昨年時点で32歳以上52歳未満まで(計算上99.9でした)は減らないようなので、死亡率等を加味してもあと15年はもつのではないかと考えています。意外と減らないのは団塊ジュニアの層が比較的に厚いことによるものだと思います。

    それでは、9日のオフ会を楽しみにしています。よろしくお願いいたします。

  6. HVC会員権は、うまく自ら「マネーゲーム」に巻き込まれて行き、価格アップに成功した様に感じています。

    マネーゲームの一面として、コロナの数年前から
    ・高級腕時計
    ・高級(かつ希少な)車
    ・超人気ワイン
    などの価格が急上昇し、買った時より(下取り等で)売る時の方が高くなる、という状況が生じていました。
    それであれば「貯金するより好きな物を買い、持っておいた方が良い」という考え方が合理的です。
    値段が下がらないのであれば、「高級ホテルに宿泊したい」という実需がある富裕層にとってHVC購入は理に適った選択です。

    ただ、このところロレックスの時価が下がる等、この傾向にも変化が生じてきた様です。
    HVCも(貯金代わりの)資産だと思って購入したのに急に価格が下がってしまった、なんて事が生じるかもしれませんね。
    この場合の「資産」とは、値上がり・運用益が見込めて換金性が高いモノ、という意味です。

    マネーゲームで使われるモノの代表格は、株式。株式に理論株価は存在しますが使用価値はほとんどありません(議決権、行使していますか?)。
    使用価値を「資産」の実質的価値だと捉えれば、一般人にとって株式は「資産では無い」という事になります。「資産」って、多義語ですね。
    定期借地権で消滅時期が決まっているリゾート会員権は「モノ」では無く「利用権」に過ぎない、だから「資産」では無い、という事も出来ます。

    「東急に対する信仰」を利用した東急不動産による市場コントロールが、数十年後に消えて無くなる事が確定しているHVC会員権を「資産化」したのであれば、それはそれですごい話ですね。

    皆様のような、文献やデータに基づいた議論で無くてすみません。長文失礼。
    9日、楽しみにしております。

  7. これはイヤな話ですが相続対策に使っている方もいるようです。会員権の評価額は市場価格の7割になりますので現金で相続するより有利という考えです。近いうちに相続が想定されており現在の相場が数年間維持されると考えている方の選択です。東急の販売トークには以前から「相続」という文言が入っています。

  8. 東急ハーベストの仲介価格についてわかりやすい解説をありがとうございました。
    東急の仲介は成約するまで販売価格を下げる代わりに買い手が現れるまで時間をかけるという手法です。不人気施設だと成約数は月数件のレベルでして20件くらいの売り待ちがあると売却するまで半年くらいかかります。15-20万円ほどの値引きも求められます。公式サイトの価額一覧表でダイヤマークがついている物件以外は市場価格ではありません。
    元箱根の新施設を今年2月2060万円で売り出すにあたって箱根の会員権相場を上げて見せたかったのでしょう。翡翠は年明けの仲介価格が2015万円とされましたがこれは流石に煽りすぎだと感じていました。翡翠から湖悠に想定以上の買換え希望があり価格を維持することができず修正を余儀なくされ現在の仲介価格は1800万円と昨年以下で手数料半額セール中です。
    ちなみに旧軽HVCは今週1660万円だそうですが、この会員権には土地所有権が含まれます。12口での共有ですから無視できない金額(3.4坪弱?近くの地価を参考にすると100万円以上?)になります。より新しい旧軽アネックスは期間50年の定期借地権であり価格差は説明できる範囲です。

  9. 東急についての勉強会近ければ参加したかったのですが残念ながら参加できないのが残念です。
    有馬六彩VIALAのオーナーでしたがこの度売却することとしました。
    理由は関西に住んでいるとどうしても使える施設が限られてしまい(買う前から分かっていたことではありますが)負担する年会費に見合う利用ができなかったこと。
    もう一つはバブルともいうべき仲介価格の高騰に逆に危惧を抱いたからです。
    resort boyさんも仰る通りRT社は販売後の市場価格に関与しないため仲介価格は裸値ともいうべき凡そ実勢価格に収斂されていますが、東急は東急リゾートが市場価格を統制している為、売主が安値で販売しようとしてもそれを許しません。
    東急リゾートから仲介で購入される方は東急不動産という恐らく東急ブランドの絶対に潰れないであろうという安心感に基づいて不動産価格からはかけ離れた現在の仲介物件を安心して購入しています。
    ただ東急不動産の事業主体は都市開発と再生エネルギーへとシフトしておりハーヴェスト事業は全体の微々たる部分しか占めていません。東急不動産は恐らく潰れませんが主要事業ではないリゾート事業を切り売りする可能性は将来十分にあります。
    東急ブランドから外れたハーヴェストがその時今のように東急ブランドをバックボーンにした価格統制を維持できるでしょうか?恐らくそれはできないでしょう。
    私はそこに不安感を感じ、豪華絢爛なRT社とは対照的なシンプルでスマートなハーヴェストでしたがこの際ご縁を切ることとしました。
    たった1年半ほどのオーナーでしたがその間に200万以上値上がりしています。ハーヴェスト会員権は資産運用と割り切ればそれはそれで良いのかもしれませんね

  10. きーあいさん、ナイスな判断ですね。
    私は国内リゾート会員権を3つ持っていましたが、1つは会社自体(セラヴィリゾート泉郷)が会社更生法の適用を受けて資産価値ゼロ、預託金が100分の1に減額され、新規会員権(オアシスクラブ)に移行しました。
    2つ目(ダイヤモンド八ヶ岳ソサエティ)は利用しなくなってしまったので、中古会員権として“時価”で売却しました。仲介手数料を含めると、ほとんどゼロ円売却です。
    エクシブは残してあります。
    もっとも、全く後悔はしていません。元々が中古会員権からお安く購入しているので実害は軽微ですし、未体験ゾーンだった「会員制リゾートクラブ」なる世界を体験できました。やはり、会員になると違いますね。東急ハーベストクラブも本気で入会しようと思って現地調査を繰り返しました。しかし、ハードル(金額)がちょっとお高くてやめました。昔の思い出です。

  11. きーあいさんうまく売り抜けできて良かったですね。東急のリゾート事業が主要事業ではないという指摘はごもっともです。ただし東急のリゾート事業は広げすぎた風呂敷で撤退は事実上不可能です。蓼科だけでも東京ディズニーランド13個分、エクシブ蓼科なら90個分の敷地がほとんど開発済みです。ここに1200戸の別荘と1200戸のリゾートマンションが建っておりこの管理を放棄することはできません。数字に出ない負の財産です。ゴルフ場やスキー場の切り売りくらいならあるかもしれませんが、リゾート事業を丸ごと引き受ける企業は出てこないでしょう。

  12. 皆さん、たくさんのコメントをありがとうございます。連載に必死でリアルタイムでお話できずにすみません。

    価格高騰の件は、今回の僕の違和感の中心的な部分なので、明日のオフ会でもできるだけ時間を取って、そこをディスカッションしたいと思います。

    この会員を巻き込んだ、相互持ち合い価格形成システムは、いつ崩壊するのか。そしてそのきっかけは何でしょうかね。有期の会員権なのですから、崩壊はシステム的に組み込まれています。

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