1人当たり売上高で見るエクシブとベイコート

相変わらず値上げのことについてぐるぐると考えを巡らせています。率直な感想を言えば、今回の値上げによって、会員にとっての経済的なメリットがかなり損なわれ、一線を超えてしまい、使わなくなる会員(スリープ会員)が増えることを危惧しています。つまり僕は、チェーンの存続に危機感を覚えています。

個人の感想はともかく、ここは研究の場でもありますから、なるべくデータを出して客観的に見ていければと思い、今日もデータ分析をご覧に入れます。

会員制のホテルでは、一般のホテル経営で指標とされる客室平均単価(ADR)やRevPARを求めても、客室売上は「実費」とされていて低く設定されていますので、適切な指標とはなりません。そこで、公開データから各ホテルの経営の様子を伺い知るための指標として、従業員1人当たりの売上高を求めることで、各ホテルの業務効率を見てみることとします。

以下のグラフは、エクシブとベイコート倶楽部の各ホテルの売上高を、公開されているホテル従業員の数で割ったものです。従業員には正社員とそうでない臨時従業員がいますが、単純にそれらを足し合わせて計算した、1人当たり売上高です。データ出典は2022年3月期の有価証券報告書で、期間は2021年4月から2022年3月です。

グラフの横軸は開業順で、左ほど新しいホテルです。上記のように、正社員とそうでない従業員を区別していませんし、各ホテルの事情やコスト構造はさまざまでしょう。これはあくまで参考指標です。また、トレンドラインを引いてありますが、傾向を示してグラフを見やすくするために過ぎません。

グラフで可視化してみたところ、いくつか特徴的なグループが見られましたので、コメントします。

ベイコート倶楽部

黒のドットで示したベイコート倶楽部は、新規開業のホテルにおいても1人当たり売上高が低く、オールドエクシブ並みにとどまっています。初代の東京ベイコート倶楽部は他のベイコート倶楽部と比較して、多少ですがよいデータが出ています。

離宮グループ

2010年代に開業した離宮シリーズは、1人当たり売上高が他のホテルと比べて有意に高く、会員制ホテル経営の成功例であると言えます。ただし、初代離宮であるエクシブ京都八瀬離宮は、他の離宮と比較して従業員数が多いため、オールドエクシブ並みとなっています。

破綻物件を再生したグループ

黄色のドットはいわゆる「グランドエクシブ」で、囲った3つのホテルはバブルの破綻物件を再生したグループです。これらは開発・販売時の初期投資が少なく済み、会員権販売で運営会社に大きな利益をもたらしました。しかし現在の1人当たり売上高は最も低い部類で、維持コストの負担から、長期的にはサステナビリティの面で不安があることがわかります。

サンクチュアリ・ヴィラを増築したグループ

山中湖と軽井沢は、オールドエクシブにサンクチュアリ・ヴィラを追加したホテル群です。客単価の高い客室群を追加販売したことは、施設全体にメリットがあったようです。グループには入れていませんが、鳥羽別邸を追加した鳥羽にも同様の傾向が見られます。

淡路島と伊豆

オールドエクシブの低稼働施設としてよく話題に上る淡路島と伊豆ですが、1人当たり売上高で見るとこれらと同等にふるわない施設は他にもあることがわかります。淡路島と伊豆は施設がコンパクトであることから、上記の破綻再生グループよりも、長期的には存続の可能性が高いかもしれません。

その他

コメントしていない他のホテルも、そのポジショニングはこのグラフによく現れているのではないでしょうか。

作図をして、破綻再生グループの高コスト構造が明らかになったのは収穫でした。この視点(豪華施設ほど長期的には維持コストが問題となる)はこれまであまり議論されてこなかったように思いますので、改めて検証してみたいと思います。

ご覧いただいて、お気づきのことがありましたらば、ぜひコメントをお寄せください。

8 comments

  1. いつも興味深く拝読させて頂いています。

    カテゴリー分けして明確に料金サービスを分ける案はどうでしょうか?
    マリオットのようカテゴリー分けします。
    カテゴリー1 サンメンバーズ
    カテゴリー2 オールドエクシブ 鳥羽、伊豆、淡路島、白浜、山中湖、琵琶湖
    カテゴリー3 エクシブ 蓼科、琵琶湖、鳴門、那須白河、浜名湖、初島
    カテゴリー4 離宮 京都八瀬離宮、有馬、箱根、湯河原、鳥羽別邸、各サンクリュアリ
    カテゴリー5 ベイコート、サンクチュアリコート

    カテゴリーの下位は、部屋代や食事料金を今より安くします。サービスはセルフ。ハーベスト方式。持ち込みok。
    カテゴリーに上位は、クラブラウンジなどを作って外資系ホテルより良いサービスとして値上げ。クラブサービスでラウンジのお酒や朝食、ジム無料。ラウンジでのフードプレゼンテーションを行います。ティータイム、カクテルタイムなど。
    カテゴリ分けは初期のホテルでSSが無いや、ユニットバスタイプがあるホテルで区分してみては如何でしょうか。SSのあるホテルは今と同じサービス。
    ベイコートはもっと高級なサービスで!
    バリエーションが増えてその用途に合わせて利用できると思います。
    勝手な意見ですみません。気を悪くしないでください。

  2. 示唆に富む分析、ありがとうございました。
    カテゴリー分類、とても理解しやすいです。

    一つ、resortboyさんにお願いがあります。
    縦軸に従業員一人当たり売上高(今回と同じ)、横軸に客室稼働率を配したグラフを作っていただけませんか?各ホテルのドッド色は今回と同じで。
    那須の立ち位置(高稼働率で低利益率?)について、他ホテルとの比較で把握したいと考えています。

  3. さっそくのコメントをありがとうございます。データに関して少し補足します。

    那須白河と鳴門の成績がとても悪いのですが、有価証券報告書には「ロッジ」扱いの買収前からあったホテル部分の売上が記載されていないようにも見えます。サンメン扱いである一方で、これらは会員制ホテルではないということになっていて、普通にOTAでも予約できます。ですから、トラスティのように別途の記載があってしかるべきですが、残念ながらそうなっていません。

    (例)グランドエクシブ鳴門 ザ・ロッジ -宿泊予約なら 【Yahoo!トラベル】

    なんだかすごく安いねぇ…。会員に対しては値上げの裏で、困ったものです。あれ、僕は変なときに、変なものを紹介してしまったかな?

    さらに脱線すると、OTA経由でロッジを使ったとしても、「エクシブのオーナーです」と身分を証明できれば、オーナーカードが出るかもしれないですね。だって、ラウンジの大家さんなんだからね。外来扱いだとしても、1,000円払えばプールなどは使えるんじゃないかな、論理的には。これは今日的な話題ですね。やれやれ、いろいろな発見があるものです。

  4. resortboyさん

    那須白河は特殊要因があったのですね。納得しました。

    グラフ全体の印象ですが、そのホテル単体の実力と言うより、東京・大阪から近く観光地としての魅力が大きい場所(箱根、軽井沢、有馬…)の収益力が高いように思えます。
    ホテル独自の魅力を高めても効果が薄い?そう言ってしまうと元も子もないですが。

    個人的には六甲SVの高収益振りが気になっています。
    スーパースイートのみ48室、レストランは和食のみ(中華・洋食が無い)という振り切った仕様。六甲って「観光地としての魅力」がそんなに高かったかな?

    最近のRT社は全ホテルを「オーベルジュ」だと考えている節があります。
    単に食事代金の高さのみならず、厳密に来店時間を指定する姿勢が。

    わざわざ料理を目当てに人里離れたホテルレストランに来た(フランスにはそんなオーベルジュがたくさんあります)のであれば、ホテル側の都合による食事時間厳守は全く問題無いでしょう。そもそも小さな宿なので、サービスに限界があることは承知の上ですし。
    ただ、日本の観光地(箱根など)の大型ホテルに旧来の温泉旅行の感覚で来た全てのお客様に対して「食事は事前予約で時間厳守、好きな時間は選べません!」とやるのは無理があり、反発を呼ぶ原因になっているのでは?と思います。

    もし六甲SVが「オーベルジュ」として成立している(経済的にも)のであれば、高山・琵琶湖のサンクチュアリコートにもそのニーズは一定量見込めそうです。東京・大阪から少し距離があり、観光地としての集客力は低めですけど。
    ただ高山は全121室、琵琶湖は167室と規模が大きく…ペット可でどこまで需要を掬えるか?考え始めるとキリがないですね。

  5. 関西に住んでいますので、六甲と有馬をよく利用させていただいています。
    六甲は週末以外は基本的に空いており、稼働率は高くない印象でした。ただ、有馬温泉とはロープウェイ1本で行けて、山上駅からも歩いて行けます。六甲は有馬離宮の付属の印象で、従業員も融通しあうことによって、六甲専属の従業員が少ないのかもしれないなと思いました。

  6. はちくまさん

    六甲の情報、ありがとうございました。
    有馬と一体で考えるべき施設なのですね。

    山中湖・軽井沢も同様に、繁忙期にエース級はSVに行かせる運用であれば、それはそれでアリ、ですね。

    子育てが落ち着いたら、TBCロイヤルスイートに買い換えようかしらん。あ、RT社の術中にはまっていますね(笑)

  7. やっぱり、ご指摘があるように立地によって稼働率が下がっているということがあるのではないでしょうか。>グラフ右下の一群

    売上高を向上させるには客単価を上げるか来場率を上げるかですが、RTは明らかに前者を値上げによって安易に上げようとしすぎですね。

    エクシブの会員がベイコートに行かないのは、施設や食事の魅力がないからではなくて単純に値段が高いからだと推測します。つまり価格のハードルがどのように稼働率(エクシブ会員の)に影響するかの、ひとつの目安にできるわけですよね。

    客単価でベイコートはエクシブの7割増しだったのですが、別記事でもあったようにエクシブの値段を1年で3割上げてしまったら、しばらくは顧客の認識は絶対額での比較になるでしょうから足が遠のくのは必然なように思います。

    RTは値上げをごり押しするのではなくて、むしろブルーやホワイトの利用者を発掘して、全体の稼働率を向上すべきと思います(すべての利用者がレッドしか使わないわけではないのは、離宮やパセオの平日の予約状況を見ればわかります)。

    あるいは、レッドでも予約が埋まらないようなグラフ右下のホテル集団に対しては…
    ちょっと冒険ですが、ブルー2つでレッド1つの権利と交換(※但し右下のホテルに限定)とか、そんな策を打てば稼働率の向上にも役立つのではないでしょうか。これなら虎の子のレッドはホームなり離宮なりの利用に充てることができるわけだし。(ホワイトはもともと少ないので2つ消費は厳しい)

  8. resortboyさんが出してくれたデータを見ていて、私にとって最悪なシナリオが見えてしましました。勿論そんな事にならないと良いなと思ってますが、

    先ず、今回の値上げ、11月からなのですが、恐らくこの辺りまでにはGOTOキャンペーンが復活、値上げ分は国が負担の形で始まるのではないかと予想、なので、会員はゆでガエル状態で決算まで稼働率は変わらず、売上だけが伸びて決算着地。

    来年中にはGOTOも無くなり、稼働率低下、売上が低迷しそれをアピールの上、年会費の値上げを(主にオールドエクシブを中心に)告知、不服のある場合、償却金(でしたっけ?)と相殺の上で会員権利放棄ができるとアナウンス。古いエクシブはフリーになり、廃業ができる。。そして買い替えも進んで会社の売り上げも復帰傾向へ、、、
    リゾートトラストとしては厄介払いが出来る。

    値引きは麻薬と言われています。今まで無かった大きな率の補助金でお得な感じに慣れてしまっています。これがなくなった後、残念ながら自分は現在ほど稼働に貢献できないと思います。
    そのような会員は少数かもしれませんが、この上年会費まで上がるようなことがあったら、、と、とても心配になっています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

😂 😍 🤣 😊 🙏 💕 😭 😘 👍 😅 👏 😁 🔥 💔 💖 😢 🤔 😆 🙄 💪 😉 👌 😔 😎 😇 🎉 😱 🌸 😋 💯 🙈 😒 🤭 👊 😊