消えゆくトラスティ – プリンススマートイン名古屋栄

何回かにわけて、「ホテルトラスティ」のことを書いていこうかと思います。それは、さまざまな来し方行く末をそれぞれのトラスティを舞台に確認することで、世界のうねりに翻弄される日本の姿、そして開発会社を巡る情勢を描けるのではないか、そんな気がするからです。

時代は変わり、この場所(僕のサイト)は、特にお得情報が得られるような記事は少なくなっていますので、はじめにお断りしておきますね。

1997年

バブル崩壊を乗り越えたリゾートトラストは、1997年9月に株式を店頭公開して資金調達を行います。1997年こそは、バブル崩壊にひれ伏した同社が復活ののろしを上げた年でした。3月にエクシブ琵琶湖を開業し、同時にワンダーネット事業を開始。5月には今日取り上げる「ホテルトラスティ名古屋」を開業します。

サンメンバーズにあったシティホテル事業の流れを、「トラスティ」という同社の名を冠したに等しい名称で再び投入したことには、大いなる野望と意志が感じられます。実際、同社は短い期間に日本有数のユニークなビジネスホテルチェーンを築きました。

バブル後における会員権事業を見直す中で、リゾートホテルは「豪華巨大化」(エクシブ琵琶湖は客室数268室と現在もエクシブとして客室数最大)することになり、シティホテルは新規の会員制による開発は中止となり、別の方向が模索されました。

こうした中で、同社が1997年に投資商品「トラスティパートナーズシステム」として開発販売し、運営が開始されたのがホテルトラスティ名古屋でした。そのことは以下の記事で書いています。

コロナ禍に見たホテル投資の「出口」

小口分譲だから再生されず数年

このホテルはコロナ禍で休館したままに、2021年1月25日付けで閉館となりました。ご存知のように、その後トラスティはわずか3ホテルを除いてチェーンまるごと売却されてしまい、2022年3月末で同社が築いたビジネスホテルチェーンは終わりました。

その中でこの旧ホテルトラスティ名古屋だけは、閉館されたままで売却されることはありませんでした。それは上記のような理由で小口で分譲されたために権利関係が複雑であったからです。

ところが2024年6月18日、このホテルは超メジャーブランドのホテルとして再開業したのでした。オペレーターは西武・プリンスホテルズワールドワイドで、再開業後の名称は「プリンス スマート イン 名古屋栄」です。

名古屋栄 - 公式サイト|プリンス スマート イン - PRINCE SMART INN -

今の西武・プリンスはホテル運営特化の企業であり、ホテルを所有しません。かつてリゾートトラストが小口分譲した権利関係がどのように処理されたのかには興味がありますが、現段階では取材ができていません。

面白いホテルだ

このホテルについてはいろいろ言いたいことがありますが、ひとまず4点ほど。

1. リゾートトラスト由来の家具

リゾートトラスト時代のそのまんまで運営している他の旧トラスティ(つまり現Koko Hotels)と違って、プリンスは流石に全室をリニューアルしています。

かつてのトラスティはモロにヨーロピアンテイストでしたが、今回のブランド「スマートイン」は要するに極限までオペレーションを削減した、今どきの宿泊特化型ホテルですので、「軽やかな感じ」にしないと「変な感じ」となるからです。まぁ似たような業態に「変なホテル」というのもありますけれど。

ですから僕がこのリブランドの話を聞いた時、ああ、昔の家具を全部捨てるんだな、と思いました。

しかし報道発表写真を見ると、ベッドボードやデスク、照明などはトラスティ当時のものがそのまま生かされています。チェアなどは処分されてしまった模様です。

2. かつてのスイートがデラックスツインに

このホテルはリゾートトラストが作ったので、ビジネスホテルには本来不要な(無駄な)広い客室が2つありました。かつてはスイートと呼ばれていましたが、現在は「デラックスツインルーム」としてリニューアルされました。

これは、閉館したトラスティにカネがかかって近代的になり、かつ、かつての1990年代リゾートトラスト制作の家具がそのまま残っているという点で、特筆すべきホテル客室です。

客室面積は53平米。前述の通り、2室あります。

3. ロビーラウンジはALLY’sが受注

FANBOXを読んでいない人には何のことやらわからないと思いますが、今、僕が注目している名古屋のレストラン企業に「ヒューマンテーブル」という会社があります。

プリンススマートインは東横インなどと同じで無料朝食が付いています。これによってチェックインとチェックアウトが自動化できるようになり、さらにこのホテルは完全にキーレスとなりました。鍵はスマホです。

朝食はロビーラウンジで提供されますが、その名を「Smart Lounge with ALLY’s」として、上記のヒューマンテーブルが受託しました。

この会社は、ホテルレストランの朝食ブッフェを受託する一方、それ以外の時間帯は勝手にレストランや居酒屋として営業する、という新しいスタイルで、名古屋を拠点に次々とビジホのレストランを受注している、ユニークな企業です。

同社が考案したというよりもむしろ、人手不足でコロナ禍後に人的リソースが戻らなかったホテル業界にとって、社会的に必要とされた業態であったように感じています。

その結果、どういうことが起きたのかはFANBOXで書きましたが、汎用的で面白い話だと思うので、いつかこの本家ブログでも書きたいと思っています。

というわけで、かつて僕が名古屋でオフ会(現在のKASAの会につながる、個人的には記念すべき最初のオフ会)をやったあの懐かしいクオーレは、いま僕がいちばん注目しているレストラン企業によって再生されたということなのであります。

4. 懸念されること

このホテルで懸念されることは、防音です。僕が利用した際には、隣の部屋のいびきが聞こえるという、驚くべき低品質の遮音性でした。これは推測ですが、たぶん防音の改良までしていないのではないでしょうか? それとも「ワールドワイド」をうたう西武・プリンスに死角はないのでしょうか?

誰か泊まって確認してきてください。

冒頭の写真は僕が撮影したトラスティ時代のエントランスです。さて、ここはどう変わっているのかな?

以下は、関連する昔の記事です。僕のトラスティ愛が詰まっているので、よかったらいくつか読んでみてください。お薦めは「ホテルトラスティ心斎橋とトラスティシリーズの系譜」ですね。

神対応オブザイヤー

ホテルトラスティ名古屋 – 1

ホテルトラスティ名古屋 – 2

リゾートトラストが一般ホテル事業から大幅撤退

ホテルトラスティ心斎橋とトラスティシリーズの系譜

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