築古の共有制ガラ権、大規模修繕を越えて

「会員制ホテル今昔物語」は、35年に渡ってリゾート会員権についてウォッチされているzukisansuさんによる連載です。日本で独自の発展を遂げたリゾート会員権、すなわち「ガラ権」の歴史をたどることで、日本的文化とは何か、日本人とは何かを、過去に学び未来を見通す―そんな奥行きのある連載として、僕から特別にお願いし、zukisansuさんにしか語れないこのテーマでご執筆いただく運びとなりました。どうぞご期待ください。(企画・制作:resortboy)

霧島エリアのガラ権3施設の巡回を終えた筆者は、鹿児島市に向かいます。鹿児島県まで来て桜島を見ないで帰るわけにも参りますまい。高速道路で約1時間、桜島を見るにはまずはここ、という西郷隆盛の銅像の上の城山に来ました。

鹿児島市の誇る歴史的ホテル「城山ホテル 1」(桜島ビューの部屋は高いですよ)からと同じ眺望の見える城山公園に車を飛ばして、西日の当たる最高の桜島を見に行きましょう 2

公園前の無料の駐車場に停め、しばらく歩くと、誰もが写真で見たことはあるはずの素晴らしい桜島の眺望が開け、写真を撮りまくることになるでしょう(冒頭の写真)。

ご紹介のホテルは残念ながら、この城山展望所からは見えません。そのホテルとは、現在のガラ権界のガリバーであるリゾートトラストの「サンメンバーズ鹿児島 3」であります。

一般ホテル内ガラ権

1980年8月開業の11階建ての105室(ツイン19室)。「サンメン・シティ」として分類されるビジネスホテルタイプの会員制ホテルです。

サンメンバーズはリゾートホテルとシティホテルで会員権を分けており 4(両方使えるタイプも存在)、預託金制ではじまったリゾートに対して、シティは共有制の会員権として募集されました。

このサンメンバーズ鹿児島も不動産共有制会員権であり、最初はメンバーズオンリーだったのでしょうが、1988年8月には一般ホテル「鹿児島サンホテル」としての営業になります 5。この時点でサンメンバーズ鹿児島は「一般ホテル内ガラ権」となりました。

さらに2008年には建物老朽化のために休業し、1年近くを要した大規模改修の後、2009年10月に「HOTEL SUNFLEX KAGOSHIMA(ホテルサンフレックス鹿児島)5 6」として現在の姿になっています。

この大規模改修においてリゾートトラストは、「耐震など法令順守に適合するための緊急改修」であるとして、共有制会員に対しての出費を求めませんでした 7。10数年を経た現在も、外観はモダンであり近隣のビジネスホテルと見比べて遜色はない出来栄えです。

ガリバーの源流の1つ

場所を確認しましょう。

鹿児島市では、デパートなどの集積する繁華街を「天文館 8」と呼びます。鹿児島市に行ったら必ず食べるだろう、かき氷「白熊」本舗の「むじゃき 9」もこのアーケードのある商店街に位置します。

サンメンバーズ鹿児島は、この天文館に近く、桜島に渡ったり南西諸島を目指すなどのフェリーターミナルもすぐという、優れた立地です。部屋によっては桜島が見える、比較的明るい場所です 10

リゾートトラストの沿革を確認すると、この鹿児島以前に、少なくとも10以上の施設を開業していますが 11、元々の躯体が残る施設としては、こちらが最古となります 12。いわば、ガラ権王者リゾートトラストの源流の1つがここに現存するのです。

一般ホテルとサンメンが混在した共有制ガラ権であり、躯体建設以来45年近くとなる本施設も、「ガラ権珍種」と呼んで良いかと思います。

霧島ガラ権探訪ルート

鹿児島県は首都圏から遠く離れ、読者の皆さまにはなじみがないかと思いますが、実に面白い場所でありました。

日本最古に近い老舗ガラ権メーカーの2つ(王者リゾートトラスト、かつての王者ダイヤモンド)の、いずれも40年を超えるガラ権珍種が現役で生息していた一方で、どデカい2ガラ権施設がそれぞれの理由で閉業・廃墟と化していたこと。

これらの施設に郷愁を覚えながら、鹿児島県の周回を終えることにいたしましょう。

大型リゾートホテルは立地一流でも存続困難に

巨大ガラ権の神隠し。天孫降臨の地に廃墟

ガラ権界の至宝、霧島の別荘地に静かに佇む

最後に、ここまでお読みいただいたガラ権ファンの方々に向け、鹿児島の誇る2つの神宮(すでに書いた「霧島神宮」と、社格ではさらに上の「鹿児島神宮 13」)の参拝を加え、鹿児島空港から巡る「霧島ガラ権探訪ルート」をご紹介しておきます。


  1. 現在の正式名称は「SHIROYAMA HOTEL kagoshima」。かつての「城山観光ホテル」として知られる。1963年に63室で開業し、1974年に新館が502室で完成。2000年に全面改装して現在の365室となる。借入金負担で経営難となるが、2006年に私的整理ガイドラインによる再生を経て現在に至る。2015年よりオークラ ホテルズ&リゾーツに加盟。
    【公式】SHIROYAMA HOTEL kagoshima(城山ホテル鹿児島)
    【公式】SHIROYAMA HOTEL kagoshima (城山ホテル鹿児島)|宿泊・予約|オークラ ニッコー ホテルズ
    城山観光、経営再建へ/銀行と協議、ホテルは継続 | 全国ニュース | 四国新聞社 ↩︎

  2. 城山公園(展望台・自然遊歩道) | 観光スポット | 【公式】鹿児島県観光サイト かごしまの旅 ↩︎

  3. サンメンバーズ鹿児島|ホテル|リゾートトラストグループ サービスサイト ↩︎

  4. サンメンバーズメンバー様|ホテルご利用のご案内|ホテル|リゾートトラストグループ サービスサイト ↩︎

  5. (報道発表)シンプルで機能的な空間に快適性を追求 ホテルサンフレックス鹿児島 2009年10月30日(金) 開業 ↩︎ ↩︎

  6. ホテルサンフレックス鹿児島|ホテル|リゾートトラストグループ サービスサイト ↩︎

  7. 同ホテルは共有制リゾート会員権方式で建設されたため(サンメンバーズオーナーズクラブ)、区分所有法に従って管理運営されている(現在も同じと思われる)。大規模修繕の必要が生じたのは、耐震基準が満たせないからであった。大規模修繕には区分所有者の同意が必要だが、区分所有者の多くとリゾートトラストは連絡が取れなかった。同社は民法第698条の緊急事務管理を適用することとし、全額を出費して修繕を行った。区分所有者からは費用を徴収していない。
    【民法697条】おせっかいな事務管理(わかりやすい条文解説) | こんぶ先生の民法ラボ(改正民法・合格体験記・過去問1問1答解説・条文解説)
    民法 第698条【緊急事務管理】 | クレアール司法書士講座 ↩︎

  8. 天文館 公式ホームページ – 鹿児島最大の繁華街 天文館の情報・イベントを配信中! ↩︎

  9. 氷白熊(しろくま)の本家 - 天文館むじゃき ↩︎

  10. 現在のルームバリエーションは以下の通り。スタンダードシングル、スーペリアシングル、ビュースーペリアシングル、スタンダードダブル、スタンダードツイン、ビューツイン
    客室バリエーション|サンメンバーズ鹿児島|ホテル|リゾートトラストグループ サービスサイト ↩︎

  11. 考証担当が確認できた、1980年サンメンバーズ鹿児島開業以前のサンメンバーズ施設は以下の通り。ただし「サンメンバーズ・ワールドタイムシェアリングシステム」の施設は含まない。
    ・1974年:サンメンバーズ名古屋白川(ヴィア白川内、シティ)
    ・1974年:サンメンバーズひるがの(2000年に建て替え)(リゾート)
    ・1975年:サンメンバーズ奥志摩(閉鎖)(リゾート)
    ・1976年:サンメンバーズ根の上山荘(閉鎖)(リゾート)
    ・1977年:サンメンバーズ賢島(閉鎖)(リゾート)
    ・1977年:サンメンバーズ京都祇園(閉鎖)(リゾート)
    ・1978年:サンメンバーズ淡路島(跡地にエクシブ淡路島)(リゾート)
    ・1978年:サンメンバーズ大阪梅田(閉鎖)(プラザ梅新内、シティ)
    ・1978年:サンメンバーズ高山(閉鎖)(リゾート)
    ・1979年:サンメンバーズ名古屋錦(閉鎖)(サンホテル名古屋内、シティ)
    ・1980年:サンメンバーズ東京新橋(閉鎖)(レック御成門内、シティ)
    ・ここにサンメンバーズ鹿児島が入る。鹿児島以降の開業で閉鎖済みのものを以下に記載する。ここに記載のないものは現在も営業中。
    ・1980年:サンメンバーズ赤倉(閉鎖)(リゾート)
    ・1982年:サンメンバーズ東京新宿(閉鎖)(シティ)
    ・1984年:リゾーピア箱根(閉鎖)(リゾート)
    ・1985年:サンメンバーズ神戸(閉鎖)(シティ、リゾート併用)(サンメンバーズ最後の施設)
    このほかにも閉鎖したサンメンバーズ施設として「東京青山」「札幌」「能登」「東京永田町」「軽井沢」があったようだが、所在地などの詳細は不明である。 ↩︎

  12. 宝塚エンタープライズが「サンメンバーズホリデークラブ」を発売するのは1974年である。1974年12月には「ヴィア白川」と「サンメンバーズひるがの」がほぼ同時に開業している。ヴィア白川はテナントビルで、開業と同時にサンホテル名古屋ヴィア白川がその中に開業する(現 ホテルトラスティ名古屋 白川)。その後、1977年にはシティホテル会員権である「サンメンバーズオーナーズクラブ」が発売され、その際にサンホテル名古屋ヴィア白川内にサンメンバーズ名古屋白川が設定された模様。ただし当時の資料(史料)には限りがあるため、これには考証担当による推測を含んでいる。ともあれ、純粋な意味で、リゾートトラストの会員制ホテルで最古のものは、本稿で取り上げたサンメンバーズ鹿児島と言ってよいのではないか。 ↩︎

  13. トップページ - 鹿児島神宮 ↩︎

文・撮影:zukisansu、企画・考証・制作:resortboy。バックナンバーはこちら

4 comments

  1. zukisansuさん

    毎回実地調査に基づく詳細なガラ権施設のレポートをありがとうございます。
    正にこのサンフレックス鹿児島に一昨日宿泊してきました。
    ツインの桜島ビューの部屋(今でも桜島ビューは料金格差があるようです)に1泊して1,430円の鹿児島(奄美)名物の鶏飯朝食を付けてRTTGポイントクラブメンバー料金2名で12,360円とこの利便性の高い立地にしては格安です。おまけにポイントで全額支払可能と狭いながらもリニューアルされた部屋はコロナ後のインバウンド激増で軒並み割高になったホテル群の中においては今でも十分利用価値がある施設であると感じました。

  2. zukisansuさん、いつもながら気合の入った詳細なレポートありがとうございます。記事の最初にある桜島と堂々たるホテルに見覚えがあったので、私の過去のフォートラベルを検索してみました。

    古い旅行記ですが、私は2009年5月25日に、この写真の「城山観光ホテル」に泊まっていました。その時の旅行記が以下です。
    ◎九州縦断旅行?(鹿児島編)
    https://4travel.jp/travelogue/10342489

    今から15年も昔ですが、文句のつけようがない素晴らしいホテルでした。確か5月の平日でしたが、2名1室(桜島ビュー)のツインルーム宿泊(朝食付き)で1人1泊10000円くらいでした。2名で約2万円という手ごろな値段だったです。夕食はガイドブックに載っていた「正調さつま料理:熊襲亭」に入り、地元の料理に舌鼓をうちました。とっても満足いく鹿児島旅行でした。

    このホテルが2015年よりオークラ ホテルズ&リゾーツに加盟していたのですね。今年の5月下旬の宿泊代金を調べてみたら、1室2名利用朝食付きの総額で、平日で46200円、土曜日で66000円でした。昔の2倍以上です。ローカルでもその地元の代表的ホテルは生き残りをかけて巨大ホテルグループと提携して新たな経営戦略に出る。ホテル経営とは難しいものですね。

  3. 鹿児島旅行記いいですね。
    城山観光ホテルは立地からも歴史からも鹿児島随一のホテルで、昔の東京の御三家を1つにしたような存在ですよね。鹿児島の知人たちは全員城山観光ホテルのメンバーカードを持っており、市内で人を招いて食事をするのはたいていここですね。
    最近シェラトン鹿児島に泊まりましたが、規模が違うので別物でした。

  4. 皆さん、コメントありがとうございました。zukisansuさんは今週、海外に測量に出ていますので、編集のresortboyからひとこと。

    きーあいさん、タイミングが奇遇でしたね。桜島ビューの件、現況報告いただいて助かります。現在のサンフレックス及びサンメンバーズ鹿児島のサイトをちゃんと再見しましたら、ビュー指定の客室販売がされているのを確認しましたので、本日中に本文を修正しておきます。

    funasanの以前の旅行記を拝見しました。価格面で隔世の感がありますが、オールドホテルもきちんと手入れと集客をすれば価値を維持できるという当たり前のことを再認識します。やっぱりリニューアル費用が仕組み的に含まれないガラ権は、結局のところ「開業ゴール方式」に行き着き、後は野となれ山となれ、なんでしょうか。皆さんで考えていきたいです。

    麻さん、シェラトン鹿児島のことを教えていただいてありがとうございます。僕は全然知りませんでしたが、以下のマンションのページを見て、ああ、鹿児島でもこうなんだ、と驚きました。

    僕の住んでいる周辺はもうどこもこんな感じで(三井の豊洲や築地、住友の有明や月島)、大資本がJVで複合施設を作っています。観光地だとビルインタイプで外資ホテルが入ってくるわけですね。

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    ガラ権にサステナビリティはありませんが、建築にカネがかかりすぎる時代になったので、これまで得意であると認識されてきた開発面でも、一流立地の大規模開発と比較すると(直接比較はできませんが)、劣勢にあると言わざるを得ません。

    東京ベイコート倶楽部をスーパーエクシブにしないで、もっとちゃんと育てればよかったと今にして思いますが、まぁその挫折があったからガラ権王者として延命できたのかもしれません。

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