東急式錬金術の系譜 – 4(居候小規模開発)

東急ハーヴェストクラブのビジネスモデル研究の続編です。今日はここ数年の小規模開発をレビューして、コロナ禍前後での状況変化についてまとめてみます。題して「居候小規模開発編」です。

東急のホテル事業の再編

本題に入る前に、東急グループのホテル事業の再編について述べます。

まず、東急ハーヴェストクラブ側から。東急不動産傘下のホテル事業は、2020年7月に統合され、「東急リゾーツ&ステイ」が手掛けるようになりました。これは東急リゾートサービス、東急ステイと東急ステイサービスが統合したもので、運営に特化したホテル会社です。

東急リゾートサービスは1960年代から別荘管理やゴルフ場運営を手がけた後、1980年代以降に東急ハーヴェストクラブの運営を受託しています。また、東急ステイは東急不動産のビジネスホテルブランドです。

次に東急(「本体」と言っていいのかわかりませんが「東急株式会社」を以下、東急と称します)側です。今年の4月から、東急のホテル事業も統合されました。東急の子会社として「東急ホテルズ&リゾーツ」が発足し、従来の東急ホテルズ、東急シェアリング(かつての東急ビッグウィークステーション)がそこに合流しました。

さらに、東急のホテルブランドも新たに再編され、フラッグシップの「東急ホテル」、シティホテルの「エクセルホテル東急」、ビジネスホテルの「東急REIホテル」、会員制リゾートの「東急バケーションズ」の従来ブランドに加えて、東急の名を冠さない「DISTINCTIVE SELECTION」というカテゴリーが作られました。

このDISTINCTIVE SELECTIONというのは、要するに、東急の電車に乗っていて「このホテルはなんだ?」と思わせるような広告が出ているホテル、というとイメージが伝わるかもしれないですね。新規開業の他に従来型からの転換もあり、「渋谷ストリームエクセルホテル東急」は来年、「SHIBUYA STREAM HOTEL」としてリブランドすることになっています。

(公式)東急ホテルズのネットワークが広がります |東急ホテルズ

東急ハーヴェストクラブ京都東山 In THE HOTEL HIGASHIYAMA

前振りが長くてすみませんが、ここからはリゾート会員権の話に進みます。まず2022年7月開業の「東急ハーヴェストクラブ京都東山 In THE HOTEL HIGASHIYAMA」です。

これは「Inタイプ」と彼らが呼ぶ、他社ホテルの中に会員権を設定するという試みです。東急(本体)の東急ホテルズ&リゾーツが運営する「THE HOTEL HIGASHIYAMA」(168室)の中の25室、300口がハーヴェストクラブとして運営されています。他社ホテルなので、分譲(共有制)ではなく預託金制です(東急不動産は預託制と呼んでいますが、僕は預託金制で統一します)。

【公式】THE HOTEL HIGASHIYAMA by Kyoto Tokyu Hotel

このホテルは東急の名を冠さないDISTINCTIVE SELECTION扱いのホテルです。このカテゴリーに、かつての東急ハーヴェストクラブ箱根明神平がリニューアルされて加わるというニュースもありますが、複雑でわけがわからないと思うので、今はスルーします。

東急ハーヴェストが他社ホテル内に「Inタイプ」を設定し販売へ

東急ハーヴェストクラブ飛騨高山

「東急ハーヴェストクラブ飛騨高山」は、東急ステイが2020年に開業した「東急ステイ飛騨高山 結の湯」に後付けで設定された会員権です。クラブの開業としては今年(2023年7月)ですが、開業時にハーヴェストクラブをここに作るという計画はありませんでした。

【公式】東急ステイ飛騨高山 結の湯|旅人と飛騨高山がつながるホテル

冒頭の写真は同ホテルの裏口(駐車場側出入口)のものですが、ハーヴェストクラブに関してはプレートが貼り付けてあるだけで、このクラブの来し方をよく示していると思います。

ホテル自体は大変素晴らしく、個人的には5年に一度味わえるかどうかという、ホテル建築に対しての感動を経験しました。機会があれば滞在レビュー記事を書きます。

もともと「特別室」があった最上階をリニューアルして、ハーヴェストクラブとして設定しました。東急ステイ212室のうち、16室を14室として、168口の会員制として運用しています。

なにしろビジネスホテル(と言っては申し訳ないほど素晴らしいホテルですが)なので、そのままではファミリー志向の会員制として不適です。そこで2室をコネクティングルームにして50平米以上の面積を確保。「16室を14室として運用」とはそのような事情です。

考え方としてはInタイプと似ていますが、運営は自社であり、他社のホテルではないのでそのような名称にはなっていません。後付の居候タイプですから、当然のように預託金制です。

京都東山は20年、飛騨高山は10年

今日の最後に、それぞれの会員権価格について触れます。預託金制なので、クラブ存続期間は有期です。京都東山は20年、飛騨高山は10年です。

京都東山は売り切れてしまいましたが、2022年の「第1次会員募集」の価格は税込862万円でした。内訳は、預託金が400万、償却保証金が220万、入会金が242万(税抜220万)です。

開業直後ですがもう仲介販売も始まっていて、現在の取引価格は895万円(税込)となっています。預託金と保証金は値上がり対象になりようがありませんから、入会金に相当する部分が値上がりしていることになります。

(公式)東急ハーヴェストクラブ京都東山|東急不動産の会員制リゾートホテル

共有制ではないので登記費用などはかかりませんが、仲介手数料は販売価格の5%を東急リゾートが徴収するので、492,250円(税込)のオーバーヘッドがあります。さらにハーヴェストクラブは共有制よりも預託金制の方が名義書換料が高くなっていて、それが275,000円(税込)かかります。

要するに、初期投資1,000万、というのがこの会員権の現状であり、それで「一般高級ホテル」に安く安定的に泊まれる権利を得る、という商品になっています。やはりこれは、相当に高度な錬金術ではないでしょうか。

僕がかつて学者の研究会で発表させてもらった際には(2021年9月)、リゾート会員権には排他的な権利が必須であると、要件の1つとしてスライドに書いたりしていたんですが、このクラブのように、一般ホテルの予約優先権や定額利用権があたかも資産であるかのような体裁で、一流とされる不動産会社によって取引対象になるというのは驚きで、「お主も悪よのぉ」と言いたくなります。

飛騨高山の方は存続10年ということで、比較論ですが、買いやすい価格です。まだ売り切れておらず、東急不動産が直接売っています。これは物件の特性上、昨今の「東急ハーヴェストイケイケバブル」に乗りようがないからですね。

(公式)東急ハーヴェストクラブ飛騨高山|東急不動産の会員制リゾートホテル

現在の「開業1次会員募集」の価格は378万円(税込)で、預託金が125万、償却保証金が33万、入会金が220万(税抜200万)です。この価格、相対的になんとなく良心的な価格に見えてしまうところが恐ろしい。ただし9割以上は普通のホテルですから、最上階でなくてよいなら安く泊まれますし、レストランも大浴場(これが素晴らしい出来栄え)も共通です。

例によって会員権の構成要素をグラフにしてみましたのでご覧ください。

次回は、最近の小規模&高額VIALA単独開発について話そうと思いますが、時間切れでオフ会当日、ということになるかもしれません。

6 comments

  1. 今回も「inタイプ」について的確な分析で敬服いたします。経営再編後の東急ステイは意欲的なホテルを次々開業しており高山結の湯はその先駆けでした。メルキュールとのダブルブランドの大阪なんばなどは評価はどうなんでしょうか。中には気の毒な事案もありまして2021年開業の東急ステイ新宿イーストサイドでは東急ハンズとのコラボ部屋が目玉だったのですがまさかのハンズ売却で梯子を外されました。ハンズ売却という高度な経営判断はリゾート&ステイには寝耳の水。こんなところにもリゾーツ&ステイの「分家の事業」的な扱いを感じます。

  2. 次回は、最近の小規模&高額VIALA単独開発についてということで期待しております。記録のために、来年開業の箱根湖悠について価格の内訳をメモしておきます。土地建物代金1521万円(土地権利金80万円+税、建物代金1310万円+税)、入会金429万円、会員資格保証金50万円、営繕充当金60万円の合計2060万円で特別縁故募集を開始。
    次に軽井沢Retreat木造で借地権35年のガーデンについて、特別縁故募集時の価格は土地建物代金1154万円、入会金286万円、会員資格保証金50万円、施設利用保証金154万円、営繕充当金60万円の1704万円でした。ハイシーズン抽選以外は同一施設として扱われるクリークの施設利用保証金は198万円です。リトリートで注目すべきは施設利用保証金という謎の項目が立ったことです。細かい話ですが次の草津の販売時にこの項目が含まれるかどうか注目しています。そうであるなら軽井沢Retreatは箱根湖悠より後から企画立案された物件ということになります。

  3. まんぼうです。東急HVCのこの数年化の変容は、この事業再編を抜きにしては語れません。きちんとメンションされていて、ResortBoyさん流石ですね!

    皆さんは、東急不動産は大手で安泰と思われているかもしれませんが、普通に財務分析をしますと、この会社の財務は三井、三菱などの財閥系とは雲泥の差で、かなりフラジャイルです。また、Hulicの様にGroupに強い金融会社を抱えているわけでもなく、最終的には15%程度を保有して、鉄道事業を主に営んでいる東急が面倒を見るという期待が信用を補完していると言えます。東急不動産としては、この微妙な関係をこれ以上東急(電鉄)寄りにしたくないものですから、自らの事業を可能な限り強化することで独立性を保ちたいと考えています。

    この流れで、東急HVCは既に会員権を販売完了しており、開発益は確保。その運営も受け持っことで、より高い投下資本利益率(ROIC)をだすと言うことを指向していました。しかし、この事業再編を経て、「しゃぶれるものはしゃぶりつくせ、美味しい事業なのだから、多大な開発益を確保したうえで、オペレーションでも利益最大化せよ」という方向に位置づけが変わっているのだと思います。

    会員としては残念な動きではありますが、一滞在当たり1万円程度のコスト増は痛くも痒くもないというのが本音で、罷り通ってしまっています。東急不動産が管理する、HVCでない施設にも割安で滞在できるようになりましたので、この点は悪くないです。

    いずれにせよ、既存会員の経済メリットを極端に変質するような改定は避けて頂きたいものです。

  4. 「会員が知らぬ間に名前が変わるHARVEST」

    東急ハーベストクラブ機関誌 HARVEST TIMES 1月号が届きました。
    最初に告知されているのは2024年から利用料が値上げになるという記事です。
    開いてびっくり。ハーベスト飛騨高山と京都東山の施設名称が変わっています。
    ハーベストクラブ施設およびVIALA施設と別項目で「RESERVE施設」という分類が立てられており、施設名称はそれぞれ「RESERVE飛騨高山 in 東急ステイ 飛騨高山 結の湯」、「RESERVE京都東山 in THE HOTEL HIGASHIYAMA」です。誌面の各ホテルトピックス紹介記事でも名称が変わっています。
    この二施設の名称変更に関するアナウンスはHARVEST TIMESにも公式サイトにもありません。(公式サイトの施設名称は変わっていません)
    施設名称が変わることを会員に告知しないなんて考えられません。管理職は何をチェックしているのでしょう。東急ハーベストクラブの管理体制はこんなにグダグダで大丈夫なんでしょうか。

  5. 補足です。
    探してみると公式サイトの12月8日付で小さく施設名称変更のお知らせが掲載されていました。これで「言ったつもり」になっているのでしょうか。今年夏に紙の利用券の廃止を唐突に打ち出して会員の激しい反発を引き起こしたことを忘れたようです。いまの組織は会員と対話する能力が欠如していますね。広報担当者と管理職のコミュニケーション能力に大いに疑問を感じます。

  6. ノラさん、まんぼうさん、コメント並びに情報をありがとうございます。

    「RESERVE施設」の件は、僕も調査をしていて気になっていたところでした。ホテルなんですから、リザーブするのは当たり前です。なぜこんな名称をつけたのでしょうか? さすがにイケイケが行き過ぎていて、恥ずかしい感じがします。

    新ブランドネーミング「RESERVE」使用に伴う変更のお知らせ│お知らせ│東急ハーヴェストクラブ -TOKYU Harvest Club-

    上記リンクの公式お知らせには以下のようにあります。

    「東急ハーヴェストクラブが厳選したホテルの一部をリザーブしてご利用いただくという意味を込め、以下の2施設のブランドネーミングを「東急ハーヴェストクラブRESERVE」といたします」

    この商法が通るなら、どんなホテルにも会員権が設定できてしまいます。ピンと来た方はそっとパーティから退場してください。

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