オフ会は明日に迫りました。テーマである東急ハーヴェストクラブの話を事前公開で連載しておりますが、ビジネスモデルを俯瞰したところで終わってしまいました。実際のところは、使い勝手とか各種ルールなどの話に、皆さんご興味があるのだと思いますが、そこはご来場の会員の方から直接お聞きするということで進めたいと思います。
さて、時間切れでひとまず最終回ですが、今回は最近の開発物件に触れ、今後の同クラブの方向性を占ってみたいと思います。
VIALA鬼怒川渓翠
2022年12月に開業した、まだ新しいホテルです。場所は東武ワールドスクウェア駅のほぼ駅前で、オールドハーヴェストの代表格である「東急ハーヴェストクラブ鬼怒川」(1992年開業、150室)の隣に位置しています。
ホテルは58室で、東急不動産が10室をキープし、「鬼怒川渓翠」の名で一般ホテルとしても営業しています。総募集口数は576口とこぶりです。
(公式)鬼怒川渓翠【公式】
既存ハーヴェストとVIALAの関係は、隣地ではあるものの寄生というほどに連携しておらず、ちょうど箱根甲子園と箱根翡翠と同じような関係にあるようです。当然のようにレストランも大浴場もあり、単体ホテルとして独立運営できるスタイルです。
開業1年を経過した現在も販売(直販)が継続しており、現在の会員権価格(最終募集)は、1,633万円(税込)です。
(公式)東急ハーヴェストクラブVIALA鬼怒川渓翠|東急不動産の会員制リゾートホテル
VIALA軽井沢Retreat(creek / garden)
「ハーヴェスト塩軽」の隣地にVIALAを増設した「VIALA軽井沢Retreat(creek / garden)」については、別稿で取り上げていますので、本稿では割愛し、補足的に述べるにとどめます。
僕が最近、ハーヴェストクラブのことを調査報道している背景は、このホテルを9月の開業直前に見に行ったことがきっかけです。僕の持っている同クラブのイメージとあまりに異なる現実に打ちのめされた、と言っていいと思います。
コメント欄で教えていただいて改めて認識しましたが、この物件(会員権)では、同社の他のクラブにはない「施設利用保証金」という項目が導入されました。creekの「開業記念会員募集」で言うと、総額2,073万円(税込)の約1割、198万円が施設利用保証金とされています。従来からの「会員資格保証金」(50万円)はもちろん健在ですから、何を根拠に200万もの金額を増額したのかは疑問です。
別記事で、同クラブの人気物件において値上がりが発生した事例を紹介しています。共有制会員権の権利の源泉である不動産部分は、現在のハーヴェストクラブの場合は有期契約であるため、その値上がりを「表現」できません。そのため、メンバーシップ部分、つまり入会金がホテルによっては2,000万円にも達しています。
上記creekの入会金は630万円(税別、以下同じ)ですが、鬼怒川渓翠は500万(最終募集)、後述の箱根湖悠は600万(第1次募集)でしたので、プラスされた施設利用保証金が、単なる軽井沢スペシャル的な錬金アイテムだとしたら怖い話です(後で関連事項について述べます)。
VIALA箱根湖悠
お盆明けの8月19日から一般向けの第1次会員募集がはじまり、たちまち完売してしまった、芦ノ湖を望む同クラブの最新プロジェクトです。これは既存ハーヴェストクラブへの寄生を一切伴わない、純粋な単独案件であり、またかつての箱根明神平のように同社別荘地内というわけでもない、東急不動産としては珍しいタイプの開発です。
(公式)東急ハーヴェストクラブVIALA箱根湖悠 | 会員制リゾートホテル
立地は素晴らしく、冒頭の写真はそれを表現したものです。見ての通り、元箱根港に近い箱根神社の第一鳥居の写真ですが、鳥居越しの山の斜面中央に白いマンションが見えると思います。そこからわずかに下った場所(右下)に、なんとなく空き地が見えるのがわかると思いますが、ここにVIALA箱根湖悠が建設中です。
すなわち、成川美術館ばりに芦ノ湖を見下ろす一等地であり、敷地は3,847坪と小粒ではあるものの、客室に半露天風呂を備え、芦ノ湖を客室から見ながらくつろげるという、話を聞いただけで契約書にサインしたくなるような物件となっています。
客室数は50室で、これまでの流れからして一般ホテル「箱根湖悠」としての運営も見越していると思われますが、東急不動産の所有はわずか1室と、分譲部分を最大化しました(49室588口が分譲され、たちまち完売=話を聞いただけで契約書にサイン)。開業予定は2024年10月。価格については次項で述べます。
鬼怒川渓翠と箱根湖悠の価格
鬼怒川渓翠と箱根湖悠は、分譲室数が前者は48室、後者は49室と、規模感が極めて似ています。
僕はリゾートトラストの研究で、同社が詳しく公表している室稼働率を長年に渡って観察しています。そこからわかることは、小さいホテルは稼働率が高くなりやすいということです。例えば以下の記事にあるグラフを見てほしいんですが、一つだけ異常値を示しているホテルがあります。それはエクシブ那須白河です。
この那須白河は、買収前からのロッジ部分を除くと52室で、鬼怒川渓翠と箱根湖悠の室数と同レベルです。経験的に、このサイズであれば稼働率不足に悩まされずに開業後のホテル運営が行えるのではないか、という仮説があります(本題ではないので今はスルーします)。
さて価格です。例によってアイテマイズしてグラフ化してみましたのでご覧ください。比較参考として、リゾートトラストの最新会員権であるサンクチュアリコート日光のラグジュアリースイート20泊を加え、さらにHVCバブルの象徴であるVIALA伊豆山のデータも併せて掲載しました。価格要素については、グラフ内表記をもってこれに代えます。
草津プロジェクト
東急の現代的なリゾート会員権ビジネス(錬金術)の分析を締めくくるのは、現在進行形の話題です。以下の報道にあるように、東急不動産は草津で大規模開発を表明し、発売準備を進めています。
(報道)群馬・草津町に会員制リゾートホテル 富裕層向けに100室超 東急不動産がハーヴェストクラブ25年度開業へ | 上毛新聞社のニュースサイト
この大規模プロジェクトは、今後のハーヴェストクラブの行く末に影響を及ぼすものであると考えられます。というのも、規模が大きく、草津という立地から、需給バランスには大いなる疑問があるからです。
場所は西の河原露天風呂に隣接と草津の中でもよい場所で、湯畑からはおよそ700メートルです。土地は4万7500平米と広大で、ホテル棟は地下1階、地上6階建で設計されました。
報道によれば「別館を建てることも想定している」と東急側が取材で明かしています。敷地に余裕があることから、塩沢スタイルの展開、すなわちVIALA併設ハーヴェストクラブを第1期として大規模施設で開業し、その後に寄生型開発として木造戸建てや別館を第2期開発として追加販売するというものです。
現在、同社が想定している会員権価格は、ハーヴェストタイプが950万円程度、VIALAタイプが1,800万円程度という価格帯です。これはVIALA鬼怒川とVIALA箱根湖悠の中間的な設定です。
建築計画として客室部分にのみ触れると、ハーヴェストクラブのツインが3~5室、スタンダードが70~72室、ファミリーが7~9室。VIALAの方がデラックス50~52室、ファミリースイート2~4室、シグネチャースイート2~4室と聞いています。ハーヴェストVIALA比率は、塩沢の119対47と比較して、大幅にVIALA側に振れています。
軽井沢特需と懸念
言うまでもなく、首都圏の人間にとって草津は、軽井沢からクルマで1時間、という場所です。そして皆さん、行ったことがありますか? 行ったことはあるでしょうが、頻繁に行く場所ではないのです。それは単純な話で、アクセスが不便であるからです。
実際、草津町で客室数が100を超える大型宿泊施設の新設は約20年ぶりということで、温泉地としての知名度と比較して、長らくホテル投資界隈から見放されてきた観光地です。そこに会員制でどーんと施設を構えることにリスクはないのでしょうか。
草津における有名ホテルというと、会員制としても有名な「中沢ヴィレッジ」があります。ホテルヴィレッジは客室162室、会員制のクアパーク倶楽部はホテル96室にログハウス40棟です。
(公式)【公式】草津温泉ホテルヴィレッジ
(公式)クアパーク倶楽部 - 【公式】草津温泉ホテルヴィレッジ
中沢ヴィレッジは草津町の政治にも深く食い込み(最近はいろいろと問題も起こしていますが…)、有利な立場で素晴らしいリゾート施設を開発しましたが、それでもうまく行きませんでした。
(報道)4月度 | 2009年(平成21年) | こうして倒産した | 倒産・注目企業情報 | 東京商工リサーチ
東急は草津という立地を、かつて東急グループであった草軽交通との関係もあり、軽井沢とセットで考えているのかもしれません。「軽井沢スペシャル的な」と上述しましたが、旧軽、旧軽アネックス、塩軽&VIALA、塩軽Vリトリートと、次々と施設を成功させ、価格もイケイケになっている状況が、草津開発の後押しになっているのではないでしょうか。
しかし、軽井沢の北方のリゾート開発は誰がやってもうまくいかず、今回の草津大規模開発はかなりチャレンジングな取り組みに見えます。
東急不動産は変節したのか
東急ハーヴェストクラブは、東急の清廉なイメージから、名古屋的成金趣味のエクシブとの対立軸において、「快適である=コンフォート」という評価をずっと受けてきました。東急もそれを自認しており、東急ホテルズの会員制度は「コンフォートメンバーズ」と名付けられているくらいです。
その受け取り方は長く沿線で暮らした自分もかつてはそうだったと思いますが、こうして調査取材を行ってみると、そのビジネスモデルはリゾートトラストよりもむしろ巧妙かつ錬金術的なものです。会員と一体となって会員権の価格バブルを演出していることに、会員側から不安の声も漏れ聞こえてきますし、本稿で検討してきたように価格合理性には疑問があり、おかしなことになっています。
そこに登場した今回の草津開発。バブルは夢が醒めたらすべて終わりです。リゾートは「いい気分」がもっとも大事であり、東急がコンフォートのイメージから、ダーティになったらパーティはおしまいです。
軽井沢での開発トラブル
最後に、東急不動産が軽井沢でイケイケになっている会員権以外の事例を紹介して終わります。
同社は現在、軽井沢で住民とトラブルを起こしながらホテル開発を進めています。場所は軽井沢文化の嚆矢の一つに数えられる「近藤長屋」の跡地です。ここは長屋が取り壊された後、ワタベウェディングが「軽井沢クリークガーデン」として結婚式場として営業していました。真向かいは「つるや旅館」です。
(参考)軽井沢文学散歩〔4〕-近藤長屋~つるや旅館~ショー礼拝堂
軽井沢はロイヤルウェディングの歴史がありますから、クリークガーデンはその地の歴史に配慮した建築として、軽井沢観光協会や軽井沢銀座商店会などと、ワタベウェディングはよく対話を行って開発運営していたようです。
そこに東急が現在、ゴリ押しで4階建て(建築基準法的には地下1階、地上3階)、65室のホテルを建設します(当初70室だったのが住民の反対に対応した計画再提出で65室に)。しかし純粋なホテルではありません。東急がサンケイビルと箱根仙石原で行った「ホテルコンドミニアム・レジデンス」という手法を使って分譲する、「マンションみたいなもの」が実態です。
旧軽に大きなマンションは規制上建てられませんが(19戸以内に規制)、分譲ホテルはその規制外であり、計画上、このコンドミニアムにはキッチンを作らないことになっています。この、裏技的で土地の由来を考慮しない東急の方針に、地元が猛反対している様子がネット上には多数、掲載されています。
(報道)【軽井沢新聞11月号】旧軽銀座に65室の分譲ホテルコンドミニアム建設、県が実地調査へ|ニュース|軽井沢新聞【軽井沢ウェブ】
軽井沢の地で、東急のイメージがダーティにならないことを祈ります。以上、まとまりがありませんが、オフ会の準備としての連載をひとまず締めくくります。
塩軽の隣のタリアセンにいた時の話です。
大学生ぐらい?の若者が、隣のハーヴェストを指差して、東急いいなあ~~1回でも良いから泊まってみたいなあ~と言っていたのがとても印象的でした。
やはり首都圏の若者には東急のイメージはとても清廉潔白のような凄く良いイメージがあるのでしょうね。
そういった良いイメージをずっと持ち続けて貰いたいです。